短編

□一番じゃない
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あなたは僕に甘えながら違う人を見ている

あなたは僕に愛されながら違う人を想っている

僕が何も知らないとでも思っているの?

悲しいくらいにあなたは残酷だ



一番じゃない



収録が終わってあなたに駆け寄る。
「今日飲みに行きませんか?」
「お、いいね〜」
たんぽぽみたいに笑う、でも僕は知っているんです。
その瞳は僕を通り越して、あの人を見ている。
僕の後ろにいるあの人は、今日は久しぶりに家へ帰れると話していた。
僕はちょっと離れたところにいたのでわざと聞こえないフリをして
「剛にぃも行きませんか?雄にぃと飲みに行くんですけど・・」
もちろん返事は
「わりぃ、今日は奥さんと子ども達に会わして〜」
満面の笑顔を申し訳なさそうにくしゃりとさせる。
いいな、いいなと雄にぃはおどけて茶化すけど、その目は曇っていた。


飲み始めて1時間ぐらい。
今日の収録の話、ドラマの話、ブログの話、なんでもないただの他愛も無い会話を続けていた。
雄にぃの視線がいろんなところに彷徨っている。
「酔ってますか?珍しいですね」
「はぁ?酔ってましぇーん。ノックあれだよ、あれ〜・・ん〜なんだったけ?」
疲れてて酒の回りが速いのか、はたまたやけ酒か。
「あ、剛にぃに電話でもしてみましょうか」
「なーんでよ、今頃一家団欒で楽しくやってんじゃない?」
机にアゴを乗せてぶーぶー文句を言う。
「電話なら長くならなければ大丈夫ですよ。」
「なぁに、ノックそんなにつーのさんが好きなの」
それはあなただ。
そう言ってしまいそうになる。
「好きですよ、もちろん」
「ふーん。じゃ、俺とは浮気だったのねっ」
なんて振りつきで名演技。
「雄にぃとは本気。雄にぃは?俺と遊び?」
鳩に豆鉄砲、そんな顔。
意地悪だよね、僕。
そんなの、答えはずっと前から知っているのに。
「・・好きじゃなかったらエッチなんかしない・・」
それも知ってる。
「でも一番じゃないんでしょ?」
なんでこんなに意地悪なこと言っちゃうのかな。
さっきもそう、雄にぃを傷つけたくてわざとあの人から家族の話をさせた。
泣きそうな困ったような顔で雄にぃは俯いてしまった。
「雄にぃごめんね」
「・・直樹が謝ることなんて何もない。俺が勝手にあの人を好きになって、家庭があるからって勝手にビビッて、直樹に甘えてるだけ。」
「違うよ」
あなたの弱ったところにつけこんだのは僕。
そうでもしないとあなたは僕の方すら見てくれなかったでしょ?
あなたはいつもあの人しか見ていない、それがたまらなく悔しくて傷つける。
それにね、僕は知っているんだよ。
本当は剛にぃも雄にぃを想ってる。
そんなのって面白くないでしょ?だから教えてあげない。
僕達は互いが一番じゃないから、これから先も傷つけ合いながらいくんだよ。
辛くても、切なくても、悲しくても、
「直樹・・」
だってほら、こんなにも繋いだ手が愛おしいんだもの。


end

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