短編

□腕の中(赤)
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その日の雄輔はいつもと違ったから、無理にその腕を振りほどけなかった。



腕の中(赤)



楽屋に入るなり、雄輔は直樹に抱きついた。
「なおーき!」
「うぉっ?!」
ぼふっ!!なんてすごい音がしてそのまま畳に突っ伏していた。
「なーにやってんの。」
仲良くじゃれてる弟二人にお兄ちゃんは優しく突っ込みを入れてあげたが、きゃっきゃしてて聞いてくれない。
ちょっぴり疎外感。


一通り暴れた後。
「あぢぃ〜、喉乾いた〜」
「雄ちゃん、暴れすぎだから」
「あ、じゃ僕飲み物買ってきますよ。」
気の利く弟・直樹は今日は一段と暴れん坊な雄輔と俺を置いて出て行った。
1分後、お財布を忘れた直樹が慌てて取りにきてまた出て行く。
そんな背中を見ながら雄ちゃん、一言。
「そこの一番近い自販機、今修理中なんだよね。こっから他の自販機か売店目指しても30分はかかるよ。」
「なっ!なんで教えてあげないのよ・・・」
「ん〜・・忘れてた」
なんて満面の笑顔で言われると脱力してしまう。


雄輔は退屈し始めたのか、携帯をぽちぽち打っていた。
俺も持っていた雑誌に目を戻す。
「・・・」
「・・・」
暫し沈黙。
「・・・ブログ?」
雑誌から顔を上げずに聞いてみる。
「うん」
会話終了。
まるで倦怠期のカップルみたいだななんて考えてたら、後ろからタックルを食らった。
振り返るとまた満面の笑顔。
離れなさいって。
僕ちん、君達みたいに若くないんだからさっきみたいなじゃれあいは体力がもたない訳ですよ。
そんな気持ちを知ってか知らずか、いつの間にやら俺の胸におでこ寄せて抱きついてる。
さっきと様子が違う感じ。甘えてる?みたいな。
俺よりがっしりしているのに。
29歳の男なのに。
なんかちょっとかわいいとか思ったり、思わなかったり。
「どうしたの?」
「んー」
顔が見えないから様子もわかんないし、とぼけた返事しかかえってこないし。
「・・・直樹が帰ってくるまでね。こんなとこ見ちゃったらもう口きいてもらえなくなりそう。」
「んー」
子どもをあやすように痛んだ髪をなでながら、遠くにほったらかしにされた雄輔の携帯を眺めながらぼんやり思った。


おばかな俺の頭じゃなんでこんなことになってるか察してあげられない。
だから待ってるよ、お前から話してくれるのを。


抱きしめた腕の中は温かい。
なんとなく感じるこの感情は…友情?

end

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