短編

□腕の中(黄)
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叶わない恋なんかしたくない。
なのにさ・・・



腕の中(黄)



楽屋に入ると目の前に直樹の背中が見えたので思わずタックルした。
見事なダイブ。
つるのさんが雑誌から目を上げて「またやってるよ」みたいな顔をする。
なんとなく気まずくて、とりあえず直樹とばたばた暴れていた。

何十分かした頃、直樹は飲み物を買いに出て行った。
ふと直樹が出た後近くの自販機が故障中なことを思い出し、その事をつるのさんに伝えるとなんで教えてあげないのって怒られたけど、忘れてたんだから仕方ない。
ワザとじゃないもん。
すっかり機嫌が悪くなった俺は、つるのさんに背中を向けるように寝っころがって携帯をいじる。
後ろではペラペラ雑誌をめくる音。
「ブログ?」
未だ背を向けたまま俺は「うん」とだけ答えた。
なんだかまた気まずい…。
多分気まずくしてるのは俺自身。
ばかばか、ほんっっと馬鹿!
つるのさんのいる方へ寝返りを打つ途中ポケットの中がガサリとした。
取り出してみるとイチゴ味の飴玉。
さっき大将から貰ったものだった。
大丈夫、お前なら間違わないと大将は言ってくれたけど、結局俺はどうしたいんだろう。
気がついたらつるのさんを好きになってた。
別に家庭を潰してまで付き合いたいとか考えてない、ただ好きなだけ。
でもこの胸のむずむずはどうしたら消えてくれるんだろう?
どうせ報われない恋なら飴玉みたいに消えてなくなっちゃえばいいのに。
むずむずに耐えられなくなって、俺はつるのさんの背中にタックルした。
ちょっと勢いつけすぎたのか、つるのさん前のめり。
辛い時こそ笑ってやろう、笑顔を向けるとつるのさんは複雑そうに俺を覗き込んだ。

気づいて欲しくない。
今の関係が崩れて軽蔑されたくないから。
気づいて欲しい。
胸が苦しいよ・・・。

つるのさんの胸にぎゅっと抱きつくと頭を撫でてもらった。
頭の上ではつるのさんが何か話しかけてる。
でもそんなの上の空。

矛盾してる、混乱している、わかんないよ、もう・・・助けて。

あなたの腕の中は温かい。
でも、俺だけのものにはならないんだよね?

end

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