短編

□+3°
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悪いこともあれば良いこともある。
だから前向きに歩いてける。

+3℃


ダルい…ぼーっとする。
馬鹿は風邪引かないって誰が決めたんだろう。
世の中俺のこと『お馬鹿』って言うけど、そんなにいうならこの熱冷ましてっ、なーんてむちゃくちゃなこと言いたくなるほどグッタリしていた。
こんな時一人暮らしって不便。
可愛い彼女の一人でもいれば、甲斐甲斐しく世話してくれたのかな〜。
愚痴っても今お付き合いさせていただいてるあの人は、多忙な上に家庭持ち。
スケジュールの空きなんてどこにもないし、割り振り当てられる分も無いわけで。
仕方ないから、夕方までマネージャーの差し入れを待つしかないのです。
あぁもう駄目かも…数日前から覚えだした新曲が、頭ん中ぐるぐるしてる。
しかも幻覚まで見えるよ。霞んでよく見えないけど、俺の大好きなあの人に見えた。
こりゃ重態だ…。

頭重い…。
久しぶりに夢も見ず深い眠りに落ちた。
頭にはひえぴたが貼ってある。
マネージャーかな?
時計を見ると6時過ぎていた。
「おはよう、雄ちゃん」
「つる…のさん?なんで…」
目の前にいるのは紛れもない、俺の大好きな人。
胸には赤チェックのエプロンをして、キッチンから鍋を抱えて出てきた。
「マネージャーさんが急用らしくてさ、代打。よっと」
ゴトリと机にでっかい鍋を置くと、ベットの隣にきて俺の額に手を当てた。
「熱、だいぶ下がったみたいだね。良かった…」
「あの、ごめんなさい。俺だけ仕事に穴空けちゃってっ」
「それはマネージャーに言ってあげて。多分今もスケジュールの打ち合わせ必死にしてると思うから。ボキは雄ちゃんが元気になってくれるだけで充分だよ」
あんまりにも優しく笑うもんだから不覚にもキュン。
「で、風邪にはお粥と思ってさ、ボキ張り切って作ったんだけど」
困った顔をしてさっき持ってきた鍋の蓋を開けると、びっくり。
4〜5人用のお鍋にぎっしりのお粥。
「…つーのさん、限度ってもんがあるでしょ?」
なんだかんだいって、2人で完食。
食べ終わった後もつるのさんは洗い物してくれたり、着替えさせてくれたりとテキパキ世話をやいてくれる。
一通り終わると、夜の10時を過ぎていた。
「電車なくなっちゃいますよ?」
ベットに寝てる俺の手を握ったまま、すっかり落ち着いたつーのさん。
若干目が閉じそう。
「ん?いーよ。何にも心配ないから、安心して寝な?」
頭まで撫でてもらっちゃって。
あぁ俺、今すっごい幸せかも。
「疲れてんのに来てくれてありがと」
幸せを分けてあげたくて、今の気持ちを伝えるといつものふにゃり顔で笑った。
「どーいたしまして」
「あんね、俺もう大丈夫だよ?」
だからさ、家族の元に帰ってあげてよ。
俺はもういいお年の男の子だから我慢できるけど、子ども達のパパはつーのさんだけなんだよ。
「…雄ちゃん、また余計なこと考えてるでしょ。病人は黙って休んでなさい」
「ホントちょー元気なんだってば!つーのさんのお蔭で熱も引いたし。俺の一番のお薬はつーのさんだよ」
瞬間、寝たまんまぎゅって抱きしめられた。
上手く重心ずらしてるのか、上に乗っかられてるのにく全然苦しくない。
「無理しなくていいんだって。今日は泊まってくるって言ってあるしさ、甘えてよ。あと、あんまりかわいいこと言わないで」
「かわいいって何?!ちょ、首元でぐりぐりしないでよ、くすぐったいから!てか、なんか熱いよ?」
「熱が移ったんだよ…俺にとって雄ちゃんは栄養剤だね、いろんな意味で」
………下の話ですか?
首元から顔をあげると、ニヤリと笑った。
ちゅっと触れるだけのキスをして、そのまま2人でいつの間にか就寝。
こんな時ぐらい、夢見てもいいよね?
夢ん中の俺はよくわかんないけどずっと笑っていて、根拠のない「幸せだ」を繰り返していた。

end

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