短編

□あなたが好き、だからあなたも
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ちゅってほっぺになにか当たる感覚。
それってやっぱり・・・?


あなたが好き、だからあなたも


死んでしまう・・・疲れたぁ〜。
弱音を吐くのは好きじゃない、可能性を潰してしまっているようで。
それに忙しいってことは、僕を必要としているということだから単純に嬉しい。
でも最近の多忙な生活のせいで僕の心はぽっきり折れてしまっている。
今日だって朝方地方から都内のTV収録の為新幹線で直行。
重たい足を引きずって楽屋に向かっていた。
見慣れたユニット名の部屋に入ると誰も着ていない。
一番のりだ・・・ちょっと仮眠しよ。
手近にあった座布団を折り曲げて、自身の頭の下に固定する。
すると3分と持たずに、夢の世界へ落ちていった。

扉が開く音で夢の中から浮上した。
起きようと思ったけど瞼が重くて目が開かない。
いいやこのままでいよう、なんて考えてたら聞き覚えのある声が。
「ノック?寝てんの??」
雄ちゃんの声がした。
僕が寝ていて寂しいのかちょっと甘えた舌足らずな声。
起きなきゃな〜・・・起きたいな〜、でも体は言うことを聞いてくれない。
そんなことをズルズル考えていたら、ふいにほっぺに当たる息。
そしてやわらかい感覚。
あれ?僕まだ夢ん中にいるのかな?
これってちゅうの感覚だよね?
まさか雄ちゃん?!
なんて頭ん中パニックで出た一言が「雄ちゃん?」
寝起きで掠れた声だったけど本人にはちゃんと聞こえたようで、やっとあけた目には赤面してわなわな震えている雄ちゃんがいた。
「・・・の、の、ノックのばかぁ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
なんて大声で廊下を走っていった。

その後雄ちゃんは準備ぎりぎりまで帰って来ず、収録中や合間は避けられ続け・・・。
「なに、お前ら喧嘩?早く仲直りしろよ」
なんてつるのさんに心配までされて、ちょっと踏んだり蹴ったりな気分。
尚且つ、雄ちゃんはそのままそそくさと帰ろうしていたもんだからさすがに捕まえた。
「この後、空いてますか?」
「い、忙しいっ」
「あれ?今日はもう上がりだよ」
真顔でマネージャーさん。
ここ最近忙しかったんだから、二人でご飯でもいってらっしゃいって満面の笑みで言われたら行かざるをえないでしょ。
「付き合ってくれますよね?」
僕もドス黒い笑顔でNoとは言わせない。
結果、雄ちゃんは首をいやいや縦に振った。

飲み屋に着いても全然目を合わせない、飲み始めても沈黙のまま。
「で、雄ちゃん。」
びくっと揺れる。
「僕はどうしたらいいの?」
雄ちゃんはダンマリ。
「あのね、雄ちゃんに寝起きでバカって言われるでしょ。避けられるわ、シカトされるわでしょ。つるのさんには喧嘩してんのか心配されるでしょ。今日一日酷いと思わない?」
指で数えながら問いかける。
「ごめんなさい・・」
しゅんと泣きそうな雄ちゃんを見て、なんだかいじめてる気分になってくる。
「謝って欲しいんじゃないよ。どうしたの?なにかあった?」
これでも僕だって心配してるんだよ。
とうとう涙目になっちゃって、鼻をすすりながら話はじめた。
「・・っ・・・ごめんっ・・・うっく・・・今日のこと、忘れていいから・・・」
今日のことって・・・
「そう言えばもしかして寝てる時にちゅうしてた?」
「気持ち悪いっしょ?・・・ごめんね?ノック」
「いや、気持ち悪くはないよ」
寧ろ・・・
「ちょっと嬉しい」
言った瞬間、涙目から大粒の涙が出だして本人が一番ビビッていた。
慌てる雄ちゃんにタオルを貸してあげる。
「僕も雄ちゃん好きだよ?ありがとう」
太陽みたいな笑顔で笑ってくれた。

死んじゃうくらい疲れることも良いもんだ。
頑張った分幸せで帰ってきたから。

end

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