短編

□君を想う
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「好きな人ができました。今年中に結婚します」


満天の笑顔でそう言った。






君を想う







夕暮れの空気は都会でも多少清んでる。


遠くに揺らめく灯りが鮮やかに見えた。


「…そりゃねーよな」


タバコの煙を吐きながらつるのはそう呟く。


「いつの間に相手見つけたんでしょうね。まぁ、寄ってくる人間なんて死ぬほどいましたけど」


「ボキ達とか?」


ははっと皮肉っぽく笑った。


遠くに飛行機が飛んでゆくのを野久保はぼんやり眺めながら続けた。


「でもこれで良かったかもしれませんね」


「何がよ?」


「これで雄兄は幸せになって、剛兄は家庭に戻れて、僕も新しく恋できる訳ですから」


つるのは興味なさ気に「そーね」とだけ答えた。



空は本格的に夕暮れを向かえ、深い紺が降ってくる。


「・・・じつはですね、僕ちょっとだけ安心したんです」


力なく笑って続けた。


「ずっと苦しいのは嫌。


でも伝える度胸もない、そのくせ他の人には負けたくないって対抗心張って・・・ホント矛盾してます。


雄兄の相手が自分の知らない人で良かった、なんて思っちゃうんです・・・っ・・くぅ・・・」


ぼろぼろぼろぼろ、涙がシャツを濡らしていく。


「そうだね、ボキ達が勝てない相手が知らない人で良かった・・・」


タバコをふかしながら優しく野久保の頭を撫でてやった。





見上げた空はもう星が瞬く時間。


袖口でごしごしこすって涙を拭った。


「よっしゃ!!直樹、飲みいくぞっ」


「はいっ!!!」


泣いてたって何もない。


だから自分達は願う。





君が幸せでありますように。



君が幸せになりますように。



おめでとう、僕の大好きな人。。。





end

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