ルパン三世
□1.5
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ドン、ドンという銃声が響いている。
そこは宮殿の中に設けられた、特別のシューティングレンジだった。
並んで二人が撃てる仕組みのインドアレンジで、背後の壁にはズラリとクラシックから最新機種までの、世界の銃が並んでいる。
ドゴンが金にあかせて、世界中からかき集めた、名銃、珍銃、奇銃の類だった。
撃っているのは、軍服に身を固めたドゴン将軍そのものだ。
でっぷりと太り、略称を並べた制服の上着がはち切れそうな程膨らんでいる。
その傍らにラピッドが立ち、ラピッドの後ろに炯は立っていた。
「将軍、片目をつぶるのは無意味です。
目をつぶればそれだけ動作が鈍くなりますし、標的の移動に遅れをとりやすくなります。」
ドン、ドン、ドン、とドゴンはコルトSAAの引き金を引く。
その度に肩を跳ね上がらせる炯は一般人になりきっている様子だ。
「ううむ。どうも上手く当たらんな。
こんなのでよく西部劇の連中は撃ち合いなどしたもんだ」
「将軍、もともとこの銃は至近距離でのみ威力を発揮するタイプです。
命中率をお望みならグロックをお勧めします。」
「オートマチックは好かんのだ。
それにほれ、処刑する政治犯共には、ロシアンルーレットをやって楽しみたい」
「No!」
炯は顔面蒼白でふるふると首を振り、ラピッドの服の裾にしがみついた。
ラピッドはその手の上に自分の手を重ねて宥めるように微笑みかける。
将軍は壁の一画を振り返った。
そこには純金製と思しい輝くコルトSAAがケースに飾られている。
そして純金製の六発のロングコルト弾もならんでおり、弾頭には巨大なダイヤモンドが埋め込まれていた。
ラピッドとドゴンが純金製の銃は大会のアクセサリーだという話をしている。
その間に炯は、掌に納まっていた小さな盗聴器(録音機でもある)をラピッドの服の内側に取り付け、スイッチを入れる。
「今年はお前の座を脅かすような強豪のエントリーはあるのか」
「はい。
ルパン三世の相棒で、次元大介というガンマンがエントリーしております。
この男は中々で、決勝まで上がって来るのは、まず間違いないかと。
ただし、その日が次元の命日になるのも、また確かでございます」
「その者の銃は何を?」
「スミスアンドウェッソンのM19。
通商コンバットマグナムです」
「おお、リボルバーか。儂と趣味が合うぞ。
お前が殺す前に一度、銃の話をしてみたいものだ。」
「お戯れを。
情報では、王族に連なる最後の一人、マリー公女が帰国しているという噂もございます。
御用心をされませんと」
「マリーか。たかが15、6の小娘に何が出来る?
見つけ次第、儂が処刑してやるわ」
「Stop it!
(やめてください!)
I feel yearn for her...
(彼女が可愛そうです…)」
「煩いぞ、小娘!
なんならお前を処刑してやろうか!?」
「No.(嫌だ)
Leave me alone!
(放っといてください!)」
再びラピッドの後ろに隠れて震える炯を、ふんっと鼻を鳴らしてドゴンは睨むが、ラピッドは優しく頭を撫でる。
「将軍に逆らってはいけませんよ。」
「…Sorry…」
「失礼致します。
ラピッド大佐、次元とその仲間が…」
「何っ」
ラピッドとドゴンは慌ただしくレンジを出て行った。
炯以外いなくなったレンジの天井からルパンがひょっこりと顔を出して降りてきた。
「よぉ、炯ちゃん」
「Who are you!?…なんてね♪
大体のdata(情報)は掴めたよ、はい」
「おっ、サンキュ!
にしても迫真の演技だったぜ」
「へへっ、女優にでもなろうかな?」
クククッとのどを震わせて笑ってからルパンは黄金のコルトSAAに近付いた。
「こりゃあ、言ってたよりも遥かにお宝じゃないの」
「ミーも驚いたよ
まさかダイヤモンドまでとはね」
手を伸ばそうとしたときレンジの扉が開かれた。
ドゴンが帰ってきたのだ。