ルパン三世

□1.7
1ページ/2ページ




ブザーが鳴った。
銃声が一発轟いた。

ラピッドがよろめいた。

その左手が空を掴んでいる。
次元のコンバットマグナムが太股のガンベルトをグロックごと弾き飛ばしていたからだった。




「し、信じられない。
私が抜くより先に、ガンベルトを撃つなんて」

「俺の勝ちだ」

「まだ勝負はついちゃいないっ」




ラピッドの右手が伸びて、革手袋の人差し指の先端が火を吹いた。
失った指の代わりに超小型の拳銃が仕込まれていたのだ。

だが同時に片膝を着いた次元の二発目がラピッドの胸目掛け、放たれていた。


ラピッドの弾丸は次元の肩をかすめ、背後のガラス壁に突き刺さった。
そしてラピッドはぱったりと倒れた。




「ラピッド!次元!」




炯がぐえ、と声を漏らしながら走って来る。
ラピッドの頭の下に膝を入れてやれば、ラピッドは焦点の合っていない目をさ迷わせた。




「次元、兄さん」

「ラピッド!ラピッド!」

「…馬鹿野郎」




次元の弾はしっかりと胸を命中していて、そのままがっくりと事切れた。




「う、ウィナー、新チャンピオン、次元大介!」




会場中がどっと沸いた。
ドゴンが思わず立ち上がった。

次元は自分の帽子を炯にそっと被せて、顔を隠させた。
それでも頬に涙が伝うのを滸は見逃さなかったが。




「信じられん、あのラピッドが負けるとは」

「将軍、表彰のご用意を」




ドゴンは夢から醒めたような顔で、対戦場へと降り立った。
待機していた医師がラピッドの死を宣告すると、ドゴンは炯の首輪を引っ張って立ち上がらせる。

その際に炯がむせたのは言うまでもない。




「新チャンピオン、次元大介――」

「待った!」




アナウンスが呼び掛けたその時だった。
マリオが甲高い声を上げると、会場の全員がそちらを向いた。




「異議あり。
次元大介に勝負を申し込む!」

「何だと、何を馬鹿なことを……」

「マ、マリオ!?
Think better of a game!
(考え直して!)」

「待て。小僧、名前を何と言う」




係員と炯が止めようとするが、ドゴンが黙らせた。
その間次元も滸もルパンも何も言わなかった。




「マリオ。
僕は次元大介の弟子だが、次元大介を超えた」




マリオは対戦場に立つと胸をそらし、告げた。
腰にはSIGを差したガンベルトが巻かれている。




「本当か」

「そんな小僧は知らない、と言いたいところだが本当だ。
俺はこの小僧を特訓した」

「面白い。挑戦を許可する。
次元、この小僧と勝負をしろ」




次元がそっぽを向いて答えると、ドゴンの頬に残酷な笑みが浮かんだ。




「馬鹿な!
俺はラピッドに勝った。
大会の優勝者は俺だっ」

「儂がやれと言ったらやるのだ。
やらないのならお前はスパイ罪で逮捕される。
…ああ、こいつでも構わんのだがな」

「っ…!
痛い、離して!」

「くっ」




ドゴンが首輪を無理に上に持ち上げると次元は歯がみした。




「ようし、始めろ」

「滸!ルパン!
どうして止めないの!?ねえ!」




ドゴンが観客席に戻るとき、一緒に連れていかれる炯は大きい声で叫ぶがルパンは無表情、滸は少し顔を歪めるだけだった。




「エキジビジョンマッチ。
挑戦者、マリオ。
チャンピオン、次元大介」




マリオの目は真剣そのものだった。

レディ、という合図のあとブザーが鳴った。

マリオが抜き、撃った。
次元の体が泳いだ。
右手にマグナムを握りしめてはいたが、マリオの方が早かった。

会場全てが息を呑んだ。
ゆっくり次元が膝をつき、前のめりに倒れ込む。
マリオは両手で銃を握り締め、肩で息をしている。




「そ、そんな馬鹿な……」



会場の隅で見守っていたコヨーテが呟いた。

白衣の医師が走り出て、次元の脈をとった。
無言で首を振る。




「ウィナー、マリオ…」




ぱち、ぱち、ぱち、拍手が聞こえた。
ドゴンが一人で手を叩き、炯は自由になった足で次元に駆け寄る。

追い掛けるようにドゴンも観客席から降りてきた。




「見事だ、見事だぞ、小僧
望みの褒美をくれてやろう。100万$か?」

「…次元?…La smetta(やめて)
…Non si muova!(動かないで!)」




それは突然だった。

炯が隠し持っていた愛銃の照準をドゴンに合わせた。
滸も観客席から降りてくるが、ルパンはそこにいるままだ。




「何を馬鹿なことをしとる、小娘。
あんたのフィアンセは今死んだぞ」

「僕が欲しいのは、あんたの命さ」




次の瞬間倒れていた次元が立ち上がると、ドゴンの頭にマグナムを押し付けた。
炯は動かずに目だけで次元を追って、安堵の溜息を漏らした。




「ようし、全員動くなっ。
動いたら将軍様の頭が吹っ飛ぶぜ」

「じ、次元、貴様……」

「ああ、驚いた!
ミーの無線壊れてて、sign(合図)がわからなかったから本当に殺されたのかと…」

「騙すならまず仲間からって言うじゃないですか」




クスクスと笑う滸が手に持っていたボタンを押すと、観客席に座っていたルパンはしゅるる〜と音を立ててしぼんでいった。







次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ