ルパン三世
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「ところで、ここで何をやらかすつもりだ。
まだ聞いてねえぞ」
目を伏せたルパンは、ゆっくり首を横に振った。
「何もやらかすつもりはないさ。俺は人捜しに来ただけだ。
実はこの"パンディット・カフェ"で過去三回、毎年一人ずつ招待者が消えてるんだ。
集まりに出席して以降、ぱったりと消息を絶っている。
その三人には共通点があってな、いずれも超一流の金庫破りってことだ。
ところで、半年前に、ダイオレス王の秘宝を収めた金庫の鍵を盗んだろ。
覚えてるか」
「あのヘッポコ形の、この世に二つとないおかしな鍵だろ」
「あの鍵を戴くには苦労しましたよね。
炯が警備員に子供は入っちゃ行けないよって言われて…大幅な作戦変更をしました」
「Shut up!(黙れやい!)
滸だって、とっつぁんに捕まりかけてルパンが助けなきゃやばかったじゃんかぁ!」
「お前ら落ち着けよ、どっちもどっちだ。
…どうも南半球はこいつらも調子が狂うらしいな」
「それは関係ないと思うぜ?
話の続きだが…あれは二つあったんだ。
二つ揃わなければ金庫は開かない、と最近になってわかった。
鍵の片割れを持っている奴もわかってる。
超一流の金庫破り、血祭三郎。
去年、ここの集まりに参加して以来消息を絶っているのが、そいつだ」
「なるほど、その前の二回でも人が消えてるんだから、偶然じゃねえな。
つまり、ここで何かあって姿を消した、あるいは消されたか
…お前らいい加減にしろよ」
呆れたように次元がルパンから視線を外して見たところには言い合いをしている二人の姿があった。
わんが金庫を見付けて開けようとしたんです、という滸の自慢に、でも開けれてないじゃん?という挑発を返す炯。
普段は仲がいいのだが、今日はどうしたのであろうか。
本当に次元のように南半球に来たからであろうか。
ルパンが思考を巡らせている間に滸は立ち上がり、トイレ行ってきます、と店の奥へ行くその華奢な体を見送ることになった。
「で、その情報は誰から聞いたの?」
「不二子から聞いた」
「それで不二子ともここで待ち合わせたのか」
「いいや、呼んだのはお前と炯と五右エ門だけさ
滸はずっと俺に付き添ってたから論外な」
「じゃあ、どうしてあそこに不二子がいるんだ」
「あーっ!不二子ちゃんだー!」
不二子の方を指差しながら帽子を摘んで深く被る次元を余所に、炯は嬉々とした声をあげた。
不二子は気付かないフリをして一人で座っているテーブルから立ち上がりトイレに消えて行った。
それから少しの間ルパンと次元がいがみ合っていたが、滸が中々返ってこず、炯はとうとう無線機の電源を入れた。
滸も電源を入れているようでたまにノイズが混ざるが周波数を合わせることでノイズも無くなった。
「滸のやつ、遅くねえか」
「まだ心配はnothingだけど、一応様子見てきてくれないかな、ルパン?」
「あ?…ああ、わかった」
言うや否や、ルパンはすぐに立ち上がり滸のように、たまに不可解な行動(女を見付けては飛び上がった)をしつつ軽い足取りで店の奥へ消えて行った。
それを見て次元は何も言わないまま煙草を口にした。
無線に意識を集中させている炯は目を開いたままぼーと考え込んでいる。
そのマヌケな顔に一口目の濃い煙をふぅー、と顔に撒き散らしてやれば目に染みたのか、喉に染みたのか。
咳込みながら涙目で睨んでくる炯に次元は心臓を跳ね上げた。
「何するの!」
「あまりにもマヌケ面だったからな」
「ふんだ!」
ぷい、とそっぽを向いた彼女を引き寄せて頭を撫でてやればすぐに機嫌は戻った。
煙草が一本灰になる前に不二子は戻ってきた。
それでもルパンも滸も帰ってくる気配がない。
「なんてこった」
「無事なのは無事なんだけどね…」
二人でトイレを見に行ってもどちらの姿も見当たらなかった。
どこを捜しても見当たらない。
今年の"パンディット・カフェ"の行方不明者は、滸とルパンなのか。
招待されてもいないのに。
次元は帽子の上からこめかみを強く抑え、炯は聞こえてくる滸の声に再び意識を集中させたのであった。