忍本


□白昼夢
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あの人は来るだろうか。
僕は今日もこうして門の前を掃除してる。

あなたが来るのを待ちながら…

「小松田くん」

茶色いサラサラの髪
白い肌
少し高い声

その全てが愛しい…

「小松田くん?」

その髪に触れたら…
その肌に触れたら…
その声に「好き」と言われたら僕は…

「小松田くん!!」

我に返ると幻だと思っていたあの人がいた。

「利吉さん!?」

あまりに驚いて声が裏返ってしまった。
心臓も破裂しそうだ。


「やあ、ひさしぶりだね。」
利吉さんは大きな風呂敷を抱えていた。
僕はなんとか落ち着こうとして会話を始めた。


「ずずず随分大きな荷物ですねぇ〜」

「ああ、いつもの母上から父上への贈り物さ。」

「愛されてますねぇ山田先生。」

利吉さんは一瞬苦笑いをした。
また僕はトンチンカンなことでも言ったんだろうか??


「ところで…そろそろ…この手を離してくれないかな…」

はっと気づくと僕は利吉さんの髪を掴んでいた。

「うわぁぁあっすみませ〜ん!」

僕は慌てて手を離した。
でももう顔が真っ赤だ。

どうしよう…変な奴だと思われたかも…
頭も沸騰しそうになってきた…


「…小松田くん…それじゃあ掃除してるのか散らかしてるのか解らないよ?」

僕は夢中になって箒を掃いていたらしく、折角集めたゴミは散らばっていた。
「うわーんっまたやり直しだーっ!」

そんな僕を見て利吉さんはふっと微笑んだ。

心臓が一層高まる。

「ほら、そんなに埃立てるから髪に付いてるよ。」

彼の手が僕の髪に触れた。
僕の頭は最高潮に達してしまった。



彼の髪に再び触れた。
今度は離さないよう両手で。

「小松田くん?」

彼の困惑した顔も、もう気にならない。

気が付いた時には彼の唇に口づけていた。



驚いた彼はサッと後ろに下がり口に腕を当てて、すごい顔で僕を見ていた。

「小松田く…君は…」

彼は少し動揺した顔を見せたかと思うとすっと俯き視線を僕から逸らすと、学園の中へ入っていった。









──嫌われた───



そんな想いが頭を巡り、泣き出しそうになりながらも彼の唇の感触を思い出し、そっと指を口に当てる…






──好きです──




嫌われた事よりも、その気持ちの方がずっと上回っていた。
彼と口づけを交わす事が出来たなんて…


もう幻のあなたが現れた時から僕は夢を見ていたのかもしれない…

例え嫌われたとしても

夢なら覚めないで─

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