忍本
□交換条件
1ページ/4ページ
―1―
暗い山の中、利吉は右足を引きずるように走っていた。
仕事の途中、ひょんな事から敵に見つかり逃げうせていた所、
敵の投げた何かが利吉の右足を掠めていったのだ。
右足を掠めた後、コを描き木に刺さった所を見ると、
恐らく、手裏剣か何かだろう。
傷口が浅くなるため、毒を塗って殺傷能力を高める
八方手裏剣でないことを祈った。
やがて月が登り、辺りがやや明るくなってくると
敵は引き上げていった。
「…ちっ」
敵が引き上げたとは言え、月明かりは忍びの仕事には天敵だ。
今日中に仕事が片付かなかったことに利吉はいら付いた。
──今日は引き上げるしかない
そう思い、憎い月明かりを頼りに水辺を探した。
どんな手裏剣だったか確認する暇などなかったため、
急いで傷口を洗う必要があった。
痛む脚を引きずりながら、ようやく河辺に着くと、頭巾を取り、
右足の袴の膝から下を破り捨て、傷口を河の水に浸した。
擦り傷とは言い難い傷の大きさに加え、昨日の雨で、
河水の速さも幾分か早くなっており、利吉の脚を刺激した。
痛みで顔が歪む。
はぁと溜息を付くと体重を後ろにかけ、月を見上げた。
月明かりに照らされたその姿は男性とは思えない程綺麗だった。