駄文置き場
□軍師の午睡
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店の方を見ると、客がちらほら見えて、親父やお袋と話ながら品物を眺めてるのがわかった。
いつもの、何にも変わらない光景だ。
ただ、その時、俺は少しだけ違和感を覚えたんだ。
客の中に一人、おかしな雰囲気の男がいた。
おかしいったって、ガキの俺におかしい理由がすぐにわかるわけじゃない。
俺はしばらく店に戻る足を止めて、その客を見つめてた。
田舎の酒屋だが、客は見知った顔ばかりじゃない。
アバロンの方から来るやつも、砂漠からくるやつもいるから、知らない顔を見た違和感じゃない…
店の商品を盗ろうっていうなら、親父達の方を気にするはずだが、そんな様子もない。
そいつは店を見ていたんだ。
店の屋根から周りまで。
時々商品に触るんだが、目は店の方を見てる…
俺は首を傾げた。
なんだか腑に落ちない感覚なんだが、そいつはそれ以外に不審な行動をとらない…そうこうしてる間にそいつは店から立ち去っていった。
そのあと、俺は仕事が手につかなくてな…
親父には遅いってどやされるし、さっきの男が気になって仕方ないしで…散々だった。
……俺は、この時の自分の予感みたいなものを、信じられなかったんだ。
蔑ろにした。
だから、親父達には言わなかった。
あの、妙な客の事も、そいつが店を見てたってことも。
俺は、言わなかったんだ。