駄文置き場

□軍師の午睡
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「まあ、そんなことがあったせいで、俺は図書館の雑用から城の事務官…今の参謀に登用して頂くことになったんだ」


「事務官から参謀とは…また思いきった人事をなさったものだな…」


アリアの驚きはもっともだが、これにはちゃんと理由がある。


「同じ事務官の上司に…フランクリン陛下に良くない感情をもってたやつがいてな…そいつを調べたら、暗殺ギルドとの繋がりが出てきた。いずれ陛下に反旗を翻すつもりだったんだな。そのクーデターを未然に阻止したのがきっかけで…取り立てて頂いた」


大きな混乱を避けるため、内々に処理をしたから、知っている人間も限られている。アリア達、地方の人間は知らなくて当然だ。


「…なるほどな…」

もっともらしくアリアが頷くので、俺は

「納得したか」


と聞いてみた。深い意味はなかったが、アリアは生真面目な顔でもう一度頷いた。


「よくわかった。軍師殿は、生かされたお方なのだと」


「生かされた?」


アリアは「そうだ」と言った。


「軍師殿は、ご両親、ご兄弟に生かされたのだ。あなたが生きた事で、放火の犯人も判明し、クーデターも防がれた。もしも、あなたがいなかったら、何人の人間が命を落としていただろう…先帝陛下、皇太后様…陛下…隊長方から一般兵士に至るまで…あなたが生きて下さった為に生き延びた者は多数いるのだ。あなたがいたから為せたことも、たくさんあるのだ。あなたに救われた人間だって、何人もいるのだ。少なくとも私は、あなたに教えを受けている時間は何にも替えがたい、満ち足りた時間だと感じているのだから」


この娘の独特なところは、これが慰めとか世辞とか激励でなく、思ったままを述べているだけ、と言うことだ。

俺に元気を出せ、と言うのではなく、彼女が感じたことの再確認。それを口に出しただけ…なのだということが、最近わかった。


だから、言ってる彼女よりも俺が恥ずかしくなることもしばしばで。


俺はらしくもなく頭をかいてしまった。


「…そうかもな…親父もお袋も…人の役に立つ人間になれって、普段から言ってたからな…」


多少は俺も…人の役に立てたってことか。
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