負の遺産
□波濤を越えて
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ずっと海を見ていた。
一面の青い世界しか知らなかった。
この青に慣れた魂は、別の所へ行きたいと願いながらも、やっぱりそこは心地よくて、普段と何も変わりなくて、退屈だった。
少女は海へ向けて手をのばした。
”誰か、この手を捕まえて。この手を引いて、私を外に連れていって。私には勇気がなくて、外の世界が遠すぎて怖いから、この一面の青い世界を塗り替えてしまえるくらい、強く私の手を引いて・・”
腰に下げた魚籠の中で、魚が跳ね上がった。
「ナタリー、帰るよ」
仲間の少女が呼び掛けた。
ばしゃん
小さく波を蹴り揚げた彼女は、変わらない笑顔で駆け出して行った。