詩人の詩
□組曲「皇帝」ひとひらの終わりと再会と
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アバロン城を間近に臨む、城下の一軒家、ここが俺の家だ。
若い頃は城内に部屋をもらって寝泊まりしていたが、結婚したのをきっかけに家を建てた。
俺と、嫁さんと、子供二人が暮らせる小さな家だ。
嫁さんはすごく喜んで、俺に抱きついてきたっけ…。
彼女は、俺みたいな無精者には勿体ないくらいの嫁さんで、毎日竈の火を絶やすことはなかったし、不平不満を口にした事もなかった。
子供が生まれてからは、多少逞しくなったけど、いつまでも変わらない優しい嫁さんだった。
子供は、上が男で下が女。
俺そっくりの、元気だけが取り柄の馬鹿兄貴と、明るくて、俺の子供とは思えないくらいしっかり者の妹…まあ、二人とも真っ直ぐに育ってくれて、俺は感謝している。
窓から見える、アバロン宮殿の尖塔を見上げ、俺はゆっくり背筋を伸ばす。
「いい天気だな…」
少し開いた窓から、春を運ぶ柔らかい風が入ってくる。
俺は少しずつその空気を吸って、肺を満たした。