詩人の詩
□組曲《皇帝》第七楽章
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ナゼールへと旅立つ前夜
インペリアルガードのディアナは、何となく眠れずに、廊下を歩いていた。
闘いを前に、緊張していることもある。
そして、確たる理由はないが、妙に胸を騒がす不安に囚われているせいもあった。
〈彼女はなぜあの時、あのようなことを言ったのか〉
〈なぜ、あんな行動をとったのか〉
考えれば考えるほど、思考は悪い方へと導かれていく…
彼女は、昇り階段を通りすぎ、角を曲がった。それは二階のバルコニーへ通じる廊下への最短経路だった。
本当は、屋上のテラスが一番見晴らしが良いのだが、三階には皇族の寝室があり、一番過敏になっているであろう彼らの主君を刺激することになるのは避けたいと思った。
長い廊下を歩き、バルコニー前の扉を警備する衛兵に、外へ出たい旨を告げると、彼はちらと扉を見て、首を捻った。
「お通しして差し上げたいのは山々なのですが、実は先ほど…」
『いいよ。通してくれ』
扉のすぐ近くから、聞き慣れた少女の声が聞こえた。
衛兵が急ぎ扉を開けると、夜着に薄い上衣を羽織った、彼女の主君が笑っていた。