駄文置き場

□ラクリモサ〜涙の日〜
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「いいか、おまえら」
宮廷魔術師タウラスは、眉間にしわを寄せていった。ただでさえ不機嫌な顔が、余計に剣呑に見える。
「今日はどういうわけか、料理番が全員食中毒で欠勤だ」
彼の隣に立ってニコニコと愛想を絶やさないのが彼の実兄、魔術師長のライブラである。
「おまけに、侍女達は全員ぎっくり腰。医師、庭師にいたるまで葬式だの歯医者だので欠勤です」「なに、この城のろわれてんの?」
女性魔術師ガーネットがキセルをくわえ、うまそうに吸った。
タウラスはおもむろに咳払いし、続けた。
「呪い云々は知らないが、とにかく我が城は食の危機にある」
「おまえの城じゃないけどな」
そっぽを向きながら頭をかいたキグナスの真横を風が吹き、背後の壁に亀裂が入った。ウインドカッターだ。
「アブねぇじゃねえかっ!当たったら首がねえぞ!!」
「いっそ首ごとその脳天気な脳みそを総入れ換えしたらいいだろうよ!」タウラスはイライラと眉間を押さえた。
彼の肩をライブラが叩き、まあ任せておけとばかりに頷いた。
「ですからみなさん。我々宮廷魔術師団は一番ヒマ…最も適任とされて、今夜の食事当番になりました」

今一番ヒマとか言ったよな…。
口には出さないが、誰もがそう思った。
「よって我々の代表者8名がしょくじ当番となります。その栄えある代表に選ばれたのは、キグナス、クラックス、サファイア、オニキス、ガーネット、エメラルド、そしてタウラスと私です」
「団長と副団長も…参加されるんですか」
オニキスが控えめに手を挙げた。
ライブラは満面の笑みをたたえ、当然とばかり頷いた。

タウラスには団員達の心の声が痛いほどわかった。
団長、つまりライブラと副団長、その妻エメラルドは、アバロンで知らぬもののない極悪夫婦だ。柔和な笑顔のまま、どんなひどいことでもやってのける。それは例えれば、気に障った相手の夕食のおかずをピーマンで埋め尽くしてみたり、ワイングラスにたっぷりとマヨネーズを絞ってあったり、甲冑や防具の類が、全て魔術師団の団服に替わっていたり、とにかく恐ろしい夫婦なのだ。

当の本人達は、そんなことは素知らぬ顔で、わざわざ羊皮紙にかいた巻物を広げて見せた。
「メニューです」
タウラスも覗き込んでみた。
「なんだって…えーと」
エビフライ
ピザ
餃子
豚汁
フルーツ盛り合わせ

「なんだ、このまとまりのないメニューは…」
「なにかもんだいでも?」
背後からエメラルドに肩を叩かれ、タウラスは急いで首を横に振った。

「じゃあ係きめるぞ。エビフライ係サファイア。ピザ係キグナス。餃子係クラックス。豚汁係ガーネットとメル義姉さん。フルーツ係オニキス。テーブルセットやら給仕やらは俺と兄貴。以上、各自仕事にかかってくれ」
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