駄文置き場

□黒鍵のエチュード
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アマゾネスのワルツ


目覚めは最悪だったが、辛うじてベッドからの転落は免れた。

ネズミだ。

あの小さな体が鼻先でうろついていた。それを思い出しただけで鳥肌がたつ。

つくづく
らしくないと思う。
ネズミを怖がる自分が。ではなく、なにも怖いものはないかのように振る舞っている、臆病者の自分が。


顔を洗って、口を漱いで、サラマットのさんざめく太陽のような金の髪を、貝殻細工の装飾がされた櫛で梳く。
短く整えたその髪も、そう遠くない昔には長く波打っていた。


「おはようございます。ヒルトさん」
廊下で声をかけられ、にこやかに微笑み、相手の髪を一房弄ぶ。
「おはよう。ナタリーちゃん、今日も可愛いよ。朝一番でボクに声をかけてくれるなんて光栄だな」
いつもの通りの、女性にだけのあいさつ。


なぜ、髪を切ったか
なぜ、虚勢を張るのか
なぜ、女性に興味を示すのか
なぜ、ボクなのか


理由は自分が一番わかっている。
それでも、変えるつもりはない。
自分を偽ってなんかいない。
辛くはない。

なのに

ときどき胸が苦しくなるのは、
きっとあの男のせい。
あの男がボクの心を惑わす。
自尊心を傷つける。

こうして責任を誰かに置き換えるのも、この心が臆病だから、なのだろう。
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