駄文置き場

□箱庭の姫君
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第24代皇帝フランクリンが崩御し、皇女セレンが帝国最後の皇帝として即位するより10年前の話である。

バレンヌ帝国は、大帝レオン以来比較的平安を保っていた。殊にフランクリン帝の御世は穏やかで、時折、部族間の衝突や、北ロンギットあたりの治安の悪い町で諍いがあることはあったが、あまり大事になることはなく、七英雄との争いに焦点を絞ることができた貴重な時代であった。


皇帝フランクリンは実に恵まれた人物であったと言ってよい。
両親に愛され、寛容で優れた兄を持ち、希望通り帝国軽装歩兵として仕官し、雪国の遊牧民サイゴ族の皇帝パールナの信頼を得て、皇帝の部隊に加わることを許され、パールナ帝の死後、皇帝に指名された。さらには愛する女性と結婚し、やや遅くはあったが姫を授かった。
唯一、40代後半より肺を病み、50代半ばにしてその生涯を閉じたことが彼の不運であろうが、これも、彼の叔父フランクリン帝や、ヤウダの天才剣士ソウジら20代で亡くなった者に比べれば十分な時間だろう。


その幸せな皇帝フランクリンの最大の幸せは、最愛の后ジェシカが御子を産んだことであった。
なかなか恵まれず、神頼みまでしてやっと授かった御子である。皇子でも姫でも、まして見てくれなどどうでも良かった。ただ無事に生まれてくれることを願い、月満ちて産まれた御子は可愛らしい姫であった。

フランクリンはそれは喜んで、蝶よ花よと姫を溺愛した。やや甘やかし過ぎた感もあったのだが、幸いなことに周りの家臣が姫を愛し、自らの子供や兄弟のように接してくれたこともあって、彼女はひねくれることなく素直で明るい少女に育った。

その姫が七つになったある日の朝、幸せな皇帝フランクリンは、ちょっとした、本当にちょっとした諍いにその身をおくことになる。
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