駄文置き場

□砂漠の銀月
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「気持ちはうれしいけれど…今の私ではあなたとは不釣り合いだわ」
帝国軽装歩兵のジェシカは言った。
「あなたには、もっと相応しい女性がいるはずよ。フランクリン」

半分本当、半分は嘘である。
フランクリン部隊長からの突然の求婚は、意外だったが、ジェシカも年頃の女性である。熱心に男性から愛を口にされて悪い気はしない。
実際、フランクリンは素晴らしい人間である。カンバーランドの王族でありながら、一般兵として帝国に仕官し、わずか数年で軽装歩兵隊の部隊長に登りつめた。人間的にも温厚で、上官にも部下にも信頼が厚い。結婚するのに、何の問題もない、理想的な男性だ。

しかし、心からそれに身を任せてしまうには、釈然としないものを感じてもいた。


フランクリンは言った。
「ジェシカ、私が君の眼鏡に適わなかったのならば、私は君をあきらめる。だが、君が私と釣り合わないというのは理由にならないよ」
「身分が違うわ。あなたは王族、私は平民よ」
「身分など!それをいっては、帝国の皇帝などなり手が無くなるよ。ジェラール陛下以降、王族の皇帝が何人いたか」
「けして少なくはないけどね」
「ジェシカ」

フランクリンは両手を上げて肩をすくめた。

「言い訳はなしだ。君が心から私を拒否しない限り、私は君に求婚し続けるよ」
ジェシカは小さなためいきをついた。
「…誰が求婚してくれても私の答えは変わらないわ。私はまだ家庭に入りたくないの。みんなと戦いたいのよ…どこまで自分が通用するか、試したいのよ」
フランクリンは目を丸くすると、一言。
「ダンターグみたいなことをいうな、君は」
いうに事欠いてダンターグとは…ジェシカは腰に手を当てた。
「とにかくそんなわけだから!ごめんなさい!」くるりと向きを変え、大股に歩き出した。

フランクリンは嫌いじゃない。でも、まだまだしたいことがたくさんある…!


帝国歴1810年

皇帝パールナの御世。
当時帝国軽装歩兵の小隊長であったジェシカは、小剣を扱うことにかけて帝国一であるとの評価を受けていた。
愛剣イロリナの星を片手に、持ち前の俊敏さを生かした戦いぶりは、その美しさも相まって“バレンヌの薔薇”と呼ばれたほどである。


後に皇帝の后となり、母となる彼女の、若き日の物語である。
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