詩人の詩
□組曲《皇帝》第二楽章
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「術士が一人いたほうが便利ですよ」
シゲンは相変わらずだるそうだった。
彼女が即位しても、無精髭を改めようとはしない。
地位や肩書きに仕えているわけではないのだ。
セレンは無言で頷いた。
「通常の陣を組むなら五人がベストです。今のままなら陛下を入れて四人…あと一人術士を入れてはいかがです?」
セレンは、組んだ指にあごを乗せて唇をかんだ。
「いや、言いたいことはわかるんだがな…どうもな…」
「実力的に不足ですか?ライブラやエメラルドでも?」
「いや。そうじゃない。彼らがどちらか同行してくれるなら、それはすごい戦力だよ。そこに不満はない」
「ならどうして」
セレンは言いにくそうに口を尖らせたりしていたが、シゲンの無言の圧力に負けて話しはじめた。
「二人は夫婦じゃないか…」
「仰る通りです…まさか陛下」
セレンは軽く机をたたいた。
「わかってるよ。戦争している国の軍人なんだから、彼らはいつでも覚悟しているはずだ。どこにいたって、不幸に見舞われる時は…そうなるだろうさ。だけど、ダメなんだよ。残されるルビーのこととか考えるとさ…」
ルビーとは、ライブラ夫妻の一人娘で、まだ赤ん坊である。
「…他の術士は?」
いささか呆れぎみに、シゲンは聞いた。
「どうもしっくりこない…そうだ!おまえはどうだ?」
思いもよらない指名に、シゲンは一瞬口籠もり、頭を掻いた。
「俺は辞退しますよ」
「どうして?!」
「俺が国を出たら、いざバレンヌが攻め込まれたときに城を落とされる可能性が八割増えます。城が陥落すれば、せっかく城に残した術士夫婦の安全も脅かされますよ」
肩を落とすセレンに、シゲンは大きなため息を吐いた。
「最初の仕事を決めましたよ…」
文字どおり、即位後の初仕事となったその遠征は、果たして正解であった。
何が正解であったかは、後に語られるとして、物語を進めてゆく。