詩人の詩

□組曲《皇帝》第六楽章
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それは、ずっとずっと昔の話


バレンヌ帝国など、まだ形もない昔…


数百年の寿命を持つ、長命種と呼ばれる人間たちが、世界を支配していた頃。





現在のアウストラス地方に、その村はあった。



辺り一帯の領主であったワグナスは、葦毛の馬に乗り、村の付近を見て回っていた。

前夜の嵐で、川が決壊してはいないか、橋が流されてはいないか…確認をするためだった。


栗色の髪を背中で束ね、豪華ではないが、凝った刺繍のされた衣服を身に纏い、まだ若い彼は、油断なく周囲に目を配った。


代々領主の家に生まれた彼は、母を幼くして亡くし、父を先日失った。

両親共モンスターに襲われての落命であった。



長命種である彼らにとって、死は恐れるべき事柄であった。
長命ではあっても、肉体は生身の人間のそれであるから、寿命というものは必ず訪れる。
長命種はそれを嫌い、研究に研究を重ね、とうとう“同化の法”という、他の肉体に魂を馴染ませる秘術を編み出した。
寿命が尽きての死は、これによって回避された。


しかし、不慮の死はこれの範疇に入らない。
魂を肉体に馴染ませるにはそれなりに時間がいる。事故やモンスターの襲撃などで、呪法を施す暇なく肉体を失った場合、死は避けられないのだ。
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