駄文置き場

□帝国的恋愛論
2ページ/5ページ

ベリサリウス

「ごめんなさい。遅くなって」
遅れた言い訳をしないのがディアナの長所だ。
「いいよ。引き継ぎでも長引いたんだろ」
おそらく正解だろう。生真面目な彼女にそれ以外の理由が見当たらない。この所遠征もなく、警備か内勤が続いた為、あうのも久しぶりだ。話したいことが山ほどあって、隣に座る肩を抱き寄せて軽く唇に触れる他は何をしようとも思わなかった。
久しぶりの時間は瞬く間に過ぎて、話したい事はまだまだあったが、自分も彼女も明日の仕事に差し支えると、どちらからともなく腰を上げた。
「今度いつあえるかな?遠征中ならいつも一緒なんだけどな」
「そうね。でもこうして時々でも会って話ができれば私は十分。幸せだわ」
つくづく欲のない。いや、俺を困らせないように感情を押さえているのだろうか?会えなくて寂しいのだと抱きついてくれば、東の空が白み始めるまで帰りたくなくなる…

思考は中断した。今図書館の陰から現れたのは…月の光に照らされた銀の輝きを、夜目にもわかるミルク色の肌を見間違えることはない。こんな夜中に何をしに城下に下りてきたのか。理由が思い当たらない。皇帝ともなれば、城内で不自由することなど何もないはず。ならばなぜ。

ちらと隣に目をやると、彼女は気づいていないようで、自分の顔を不思議そうに眺めていた。
一瞬彼女に話そうかとも考えたが、やめた。

部屋に戻ってからも、頭の中を離れなかった。
まさか自分たちと同じ理由でいたのだろうか、つまりは人と会うために。何のために…何か厄介事が起きているような素振りはなかった。嘘が下手な人だ、顔を見ればわかる。
まさかとは思うが色恋だろうか?それならば口を出すようなことではないが…
寝台に横たわると目を閉じる。先ほどの光景が思い浮かんできた。
それにしても、いかに隠れてあっていたとは言え、相手の気配がなさすぎたのではないか。ギルドのシーフ達なら気配を消すのはお手のものだが、彼らとは行き掛けに会っている。時間的に辻褄が合わない。
一体誰と?
なぜかいやな予感がした。得体の知れない悪寒が背筋を凍らせた。

それから半年後、俺たちは思いもかけない真実を知ることになる。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ