駄文置き場

□箱庭の姫君
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朝の歌


その日も、皇帝フランクリンは、皇后ジェシカと愛娘セレンと朝食を摂っていた。

食堂での、いつもの光景。にこやかな后と、可愛らしい姫。テーブルマナーを覚えたばかりの姫が、まだぎこちなく食器を扱うのを微笑ましく見ていた。

そこまでは、何ら変わらない“いつもの“食卓であった。


「あら、姫様。ジャムがお洋服に…」
世話役のリリィが、給仕をしながら姫の食べこぼしに気がつき、ナプキンで服の汚れを拭いた。幼い姫は、むっとして、リリィに膨れ面を返した。フランクリンにはそれが気になった。
娘は幼いなりにプライドがあったのだろう。それはわかる。が、人の上に立つものとして、それは正しい対応であろうか?
彼はここのところ体の不調が続き、自分よりも後の世界を生きていかなければいけない娘の将来を考えるようになっていた。

「セレン、リリィはいつもお前の為に手をかけてくれるのに、今の態度はないだろう」
普段甘い父の突然の苦言に、一瞬動揺して、次いで気分を害したように眉を寄せた。
「リリィに謝りなさい」静かではあったが有無をいわさぬ声に、セレンは多少怯えの色を見せるが、そのまま下を向いて黙ってしまった。
「セレン」
再度の父の呼びかけにも、セレンは応じなかった。
「お前は、リリィの気持ちがわからないのか?自分を心配してくれる人間に、ましてお前より年長の人間に、そんな態度を取ることは正しいのかね」
セレンは小さな声でリリィに
「ごめんなさい」
と伝えた。
フランクリンがほっと一息ついたとき、セレンは言った。
「父上の意地悪」
食事が済んだこともあり、セレンは席を立つとそのまま食堂を出て行った。


「極端なんですよ。あなたは」
ジェシカが紅茶を手にとって一口飲んだ。
「今のあの子には必要なことですけども、急に厳しくなってはあの子も混乱しますでしょ」
フランクリンはため息をつくと、顎髭を撫でた。「皆の前で恥をかいたのが悔しかったのだろうが…私もいつまでもあれのそばには居られんからなあ」
ジェシカは他愛ないことのように肩をすくめた。「あの子がどう出てくるか…それによってこちらも対応を考えましょう」「先のテレルテバ戦線よりも、娘の攻略がよほど難しいな…」
フランクリンの言いようにジェシカは笑ったが、彼は再度長いため息をついた。
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