★コードギアス★

□逆転のルルーシュ〜TURN.1〜
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 鉄の香りがやけに鮮明に感じられた。
だというのに、

「ル…、ルルーシュ……」

 耳元で呟かれた声は、何故か遠くに感じられる。

 その矛盾は俺に一つの結論を告げていた。

 これが、「死」というものなのだと。

 今にも意識を手放してしまいそうになる中、残った理性でどうにか言葉を紡ぐ。
 言わなければ、お前に…。

「これは、お前にとっても罰だ……」

 仮面越しのおかげで彼の表情は見えないことが救いに思える。

 俺とは違い、彼にとってはこれが始まりなのだ。
 多くの咎と罪を抱えて「明日」を生きてゆくという「罰」の……。

 幼い頃に犯した父親殺しの罪、主を護れなかったその咎、そして……。

 もう一つの罪状は、

「お前はこれから、ZEROとして全てを世界に捧げるんだ。
 人並みの幸せも、これまでの人生も全て取り戻すことは出来ない。
 仮面を被り続けろ……」

 友殺し。
 
 スザクにとってその行動は二度も友達を喪うことに他ならない。

 しかも、その二度とも手を下したのは自分なのだ。

 己の世界を自ら何もかも破壊して、全てを偽ったまま新しい『明日』を生きる。

 そこに救いがあろうと無かろうと、それでも。

「その『ギアス』……、確かに受け取った……っ」

 お前は生きるんだ。
 俺たちが壊して創った、『明日』という名の未来を。

 一瞬の内に色を失い霞んでゆく視界、薄れてゆく思考の中で、ルルーシュは歩みを止めることなく……

 王座から堕ちていった。



「……………お兄さま…?」

 当初の計画通りに斜面から無事に滑りおちると、ルルーシュは周囲に気付かれないようそっと微笑んだ。

 これで全ての問題はクリアされたのだ。
 「優しい世界」への布石もすでにうってある。
  
 俺たちはやり遂げたのだ、「ゼロ・レクイエム」を。

 ……………だから、

「そんな……、お兄様は………最初から……?
 ――――――――――――――――、っっっ!!!!!!!!」

 そっと目を閉じかけたその時、誰かのか細い声が耳に届いた。

 いや、………違う。

 もうその音しか聞こえてこない。

 懐かしいあの頃の、光を失った頃の、

 大切な彼女の声が心の中に響いてくる……。

 ありがとう……、ナナリー……、ずっと、側にいてくれて……、
   
 強く握られた手から流れてくる温かさに、胸がいっぱいになる。
 
 最後にこの手をとったのは、もう随分と前のことだ……。

 ルルーシュは虚ろな瞳で、それでもなお、彼女を見続けた。

 こんな日がやってくるなんて、あの頃の俺は想像さえしていなかった。
 
 それほどまでに、妹は立派になった。

 あの頃泣いていた少女は、もう一人で泣くことができるのだ。
 その成長が少しだけ寂しくて、そしてなによりも誇りに思える。

 「―――――――お兄様っ」

 お前が選んだ道を俺たちは守りたいと思ったのだから、もう俯かなくていい。
 間違ってはいないと多くの人が証明してくれるはずだ。

 お前が願ったとおりに、世界は優しく変えてゆけるのだから。

 たとえそこに、

「愛しています…………………………っ!!」

 愛した人がいないとしても―――。

 

 けれど、

 この手を離しても、
 傍にいなくても……、


 愛しているよ、ナナリー………。
 
  



 カタチを持ち得なかったその言葉を最後に、

 残された少女の慟哭を置き去りに、

――――――少年は静かに闇に堕ちた。






















Re; TURN.1 始まりの地



 その時、いやに懐かしい起こし方で彼(?)は目を醒ました。

「起きろ、ルルーシュ」
 
 そう、懐かしくも忌まわしい遠慮のカケラもない鳩尾への一撃は、ぼんやりとしたルルーシュの思考を一瞬のうちに覚醒させたのだった。

 効果的といえば、実に効果的だ。
 ……急所に撃ち込まれた痛みさえ無視してしまえば、だが。

「っ痛ぅぅ………………っ!!
何をする、C.C.!!」

「何を……?
 見ての通り、起こしただけだぞ」

地面に蹲り、悶絶するルルーシュなど全く気にすることなくC.C.は答えた。
それも、普段と変わらぬ調子で。
むしろ何故責められなければならないのか、疑問にさえ思っているようだ。

そして、そんな態度のC.C.を前に日頃溜めに溜めていたルルーシュの鬱憤が炸裂した。

「ふははははは………ッ!!
 よし、いいだろうC.C.!!この機会に貴様のその捩れた性根を叩き直してやろう……ッ!!」

 いつもながらの大仰なゼロ仕様の仕草でC.C.を指差しながら、ルルーシュは言い放つ。
 その指遣いにほんの少しの違和感を感じながら……。

 が、表情は思い切り活き活きとしている上、とても楽しそうな高笑いである。
 ゼロレクイエムを開始させて以来、見ることのなかった表情だ。
 それがいいのか悪いのかは別として……。

 そんなルルーシュのテンションなどは気にせず、

「遠慮する。
 暑苦しいのは嫌いだ」

 と、C.C.がすっぱり言い切ると、

「却下だ」

 そう言ってルルーシュが突っぱねた。

「前々から思っていたが、お前の性根の悪さは一度矯正する必要がある。
 わかったか、このピザ女。

 というわけだから、いいから黙って、大人しく、俺の講義を聴け」
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