球児と夢

□ひなどりプレリュード
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何気ない会話の中で、私が彼女と同じ中学だと言ったら、田島はぱっと顔を輝かせた。

「アイツいー奴だよな!こないだ俺、お菓子もらったもん」

にかっと嬉しそうに言われたので、思わず自分の口を手で覆う。
やばい、危うく吹き出すとこだった。

「た、確かにいい奴だけどさ。その理由はどーかと…」

なんだコイツ、食べ物の恩義は覚えているタイプか。

「田島ってば、餌付けされちゃったの?」
「えー、餌付けじゃねーよ!」

心外だという顔で叫ばれても、こっちは笑いを堪えるのに必死である。
さっきの台詞だけ聞いたら、それはもう餌付けとしか言えないだろう。彼を味方にするのは簡単そうだな。

「じゃあ私も、餌付けしとくかなー」

どっかで私のことも、いー奴って言ってもらえるかもしれないし。
なんてどうでもいいことを呟きながら鞄を漁っていると、田島がぴょこんと覗き込んできた。
見るな見るな、プライバシーの侵害だ。
鞄の中身が田島から見えないように角度を変えて、もそもそと中を探る。
彼は私の机に手を付いたまま、大人しく待っていた。

「なになにっ、阿須野もなんかくれんの?」

前言撤回、大人しくなんかない。
ぴょこぴょこ飛び跳ねて、全身で期待を表している。
そんなことされても、私の鞄は四次元ポケットじゃないのだ。

「うーん、ない」
「え?」
「ごめん。残念ながら、あげるものが何もない」

たまに飴くらいは持ってるんだけど、基本的に私は、お菓子とかをあまり持ち歩かない方だ。
みんな、こういうときのために色々持ってるわけね。なるほど、勉強になるなぁ。

「なーんだー、ざーんねんっ」

腕を大きく上げて、伸びをしながら言う。
その仕種に、田島の残念具合の底が知れて、私は安心して笑った。

「あはは、ごめんねー。また今度、なんか持ってるときはあげるから」
「まじで!?ゲンミツに約束だかんな!」
「はいよー」

厳密に約束って、なんか重い約束になってないか?
そう思ったけど、田島があんまり嬉しそうに、座っている私を見下ろしてるものだから、深く追求しないことにした。

とりあえず今日の帰りは、お菓子買いに行こうかな。



 ひなどりプレリュ
 阿須野がくれんなら、何でもいーよ!



Fin.

プレリュード=前奏曲
20110825.with Tajima/餌付け


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