球児と夢

□遠雷が呼んだ
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遥か遠くで雷が鳴る音は、ゴロゴロではなくて、ぞわぞわ、だと思う。
そう言ったら、友達に笑い飛ばされたことがあった。
でも、まさに今、窓の外から聞こえたのは、ぞわぞわぞわ、だ。

「なにキョドってんだよ」
「え、別に」

廊下側の自分の席から、窓の方に首を伸ばしていたら、隣の阿部と目が合った。

「雨降んのかなー、と思って」
「あー、今日の予報、雨だったな」

ちらり、と私の視線を追って、どんよりと暗くなった外に、顔をしかめる。

「こりゃ放課後までもたなそー」
「そりゃ無理でしょ。雷鳴ってるし」
「雷?鳴ったか?」

もう1度阿部が、窓の方を向く。
ちょうどそのタイミングで、空にゴロリ、と重たい音が響いた。

「…鳴ったな」

それと同時に、私の肩が跳ねたのは、見られていないことを願う。

「……」
「……」
「…お前、雷ダメなの?」
「いや、別に」

見られていた。

「ダメってゆーか、ビクっとするだけ。条件反射みたいなもんだから、ほっといて」
「ふーん」

ニヤっと、面白いものを見つけたように笑われた。
うわぁ、最悪。

「こっち見ないでくれる?」
「俺は頬杖ついただけだけど?自惚れないでくれる?」
「じゃあ反対の手でやって」
「それじゃ、ペンが持てねっつーの」

あっさりあしらわれて、顔が引きつる。
もういいや、と無視を決め込むことにした瞬間、またしても空から重たい一撃。

「………」
「なんか、だんだん近付いてるよなー」
「そりゃつまり、雨も近付いてるってことデスネ」
「あ、それは困る」
「それはって」

思わず溜息をつくと、なんだよ、と不機嫌そうに返された。
目付き悪いんだから、あんまり睨まないで欲しい。
そう思って、じろっと見返したら、阿部がなにか閃いたような顔をした。効果音をつけるなら、ぴこん、だ。

「え、なに?」
「阿須野、今お前、手ェ冷たいだろ」
「は?」

得意気に言われて不思議に思いながらも、自分の手を頬に当てる。

「…冷たい。なんでわかったの?」
「さーぁねー」

妙に明るい声で、可笑しそうに返事をしながら、ノートをとることも忘れない。
なんなの、この微妙にどうでもいい扱い。

でも、阿部がこんなにくるくる表情を変えるのって、初めて見たかもしれなかった。

「あ、雨」
「うわ、やっぱダメだったか」
「とーぜんだ。ざまみろ野球部」

私を散々いじめた罰だ、と舌を出してやったら、物凄く不愉快そうに舌打ちされた。
なんだよ舌打ちって、と声に出さずにツッコんだら、気分は逆に、明るくなった気がする。


 
 遠雷
 君と話すのが面白くなってきたみたい



Fin.

雷にビビってるのが面白かったのと、気を紛らわせてやろうという優しさが半々くらいの阿部。
20110826.with Abe/雷


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