DREAMT

□an call
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彼と喧嘩した。

私と彼、獄寺隼人は、いつも馬鹿みたいに一緒にいるくせに、馬鹿みたいに喧嘩する。
そりゃあもう、些細なことで。
でも、それが些細なことだと気付くのは、わーっと喧嘩して、わーっと別れて、我ながら支離滅裂な話を京子や花にぶちまけて、一息ついてからなんだけど。

そんな私に、嫌な顔ひとつせず付き合ってくれる京子は、同性ながらとっても可愛い。
はっきりと機嫌の悪そうな顔をする花も、何だかんだで話は最後まで聞いてくれたりする。
2人共大好き。
そう言って抱き付いたら、「そーいうことは、アイツに言ってやんなさいよ」と引き剥がされた。
くそぅ、そんなこと出来たら、とっくにしてる。

2人とも別れて、1人で自宅に戻った。
部屋の明かりが妙に白くて、何となく空気が寒々しい。
よく考えたら、私も悪かった気がするんだけど、でもやっぱり私だけが悪いわけじゃなかった。隼人も悪い。

あー、…これはもう、おあいこ?

せーので謝って、終わりにしようって言ったら、乗ってくれるかなぁ。

そんなことを、ぽやぽやと考えていたら、不意に携帯が鳴った。
数年前に発表された、未だに好きな曲。
サビを1周聴き終えて、それでも止まない音楽を、ゆっくり止める。
深呼吸をひとつ。

ディスプレイにはもちろん、彼の名前。

「はい」
『おぅ』
「おかけになった番号は、現在使われておりません」
『んなっ、着信拒否かよざけんなテメェ!』
「御用の方は、ピーッという音の後に、お名前と、ご用件をどうぞ」
『…っは?』
「ぴーっ」
『……あー、なんだ』
「…お名前をどうぞ」
『聞いてんじゃねーかよ!』
「……」
『………獄寺です』

勝った。
てゆーか、何で敬語?

「ご用件をどうぞ」
『…あ、いや、その』
「……」
『わ、悪かったな』

電話越しに聞く声は、いつもより低くて、ちょっと聞き取りにくい。
でも、直接耳に染み込んでくる彼の言葉は、思っていたよりずっと、胸に響いた。

「はやとぉ」
『…あ?』
「私も」
『…何が』

言わせる気だ。私にも。
電話の向こうで、にやりと口角を上げる様が見える気がする。

「ごめんなさい」
『……』
「…隼人?」
『しょーがねぇなぁ』

ふ、と小さく笑う気配がした。
やっぱり、笑ってるのだ。
身体中の力が抜けて、私も思わず吹き出してしまった。

「あははっ、しょーがないなぁ隼人ってば!」
『は?テメ、何笑ってんだよ』
「えっへへ、隼人が可愛くて」
『はぁ?お前、それ褒めてねーだろ』
「えー?めちゃめちゃ褒めてんよ!」

大好き。
そう付け足したら、隼人が何か返してきたけど、ちゃんと声になってなくて、何て言ったのかは分からなかった。



−an call:アンコール−
何度でも掛けて、その曲を鳴らして。
切ってしまうのが、勿体なくて。



そうやって馬鹿みたいに笑っていたら、喧嘩の理由もいつの間にか、どこかに消えてなくなっていた。


Fin.

傍迷惑なバカップル。
言うまでもありませんが、callの冠詞はanでなくaが正しいです。

20090109+0512+16/着信拒否


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