zzz6

□逃亡
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「なぁ嬢ちゃん。世界って奴はギチギチに頭が堅いとは思わねぇか?」
「……」
私はシカトを決め込んだ、訳ではない。
私はもう声を捨てたから。
どうせ持ってても、誰も何も聞いてくれない。
邪魔な物は、棄てた。
いつの間にか隣に座っているその人は、話し方や声から判断するに年上の男の人だと思う。
別に興味ないから、私は少し顔を俯けて伸びすぎた爪を見つめる。
「どれだけ生きてもどれだけ頑張っても、何一つ変わらないモノになんか出逢えないもん」
いつの間にか隣に座っているその人は、話し方や声から判断するに同い年の女の子だと思う。
別に興味ないから、私は少し顔を俯け比較的新しい靴に包まれた爪先を見つめる。
「変わらない友情とか変わらない愛とか。すっげー探したけど、俺には見つけらんなかった」
いつの間にか隣に座っているその人は、話し方や声から判断するに小さい男の子だと思う。
別に興味ないから、私は少し顔を俯けて自分の喉にそっと触れる。
「結局、誰にも見つけられない。だって、元より変わらないモノなんて無いから。過去にも今にも未来にも。そんなモノ、どこにも、ない」
いつの間にか隣に座っているその人は、話し方や声から判断するに私だと思う。
別に興味ないけど、私は少し顔を上げて私と目を合わせる。
「だから私も、変わっていくんだね」
久し振りに発した声は聞き取れないくらいかすれて小さかった。
だけど、私は聞いてくれた。
私には出来そうにない笑顔を浮かべると、私は立ち上がって去っていった。
私は私の姿が見えなくなると椅子から腰を上げた。
二本の足はしっかり私を支えてくれる。
振り返ると鏡の中に私が映ったから、笑ってみた。
やっぱり私は私より笑顔を作るのが下手みたいだ。




逃亡者Aは自首を選んだ。



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