zzz6

悲劇主義者
1ページ/1ページ


「ねぇ、あなたが熱心に書いてた小説、なんで最後のページは真っ白なの?」
問うと、彼は気怠げに振り向き人差し指を立てた。
聞いてなかったからもう一度言え、という無言の催促。
「なんであなたはこの小説の結末を書かないの?」
「……何言ってるの」
彼は心底疑問だといった風に呟く。
質問してるのはこっちなのに。
「あなたにしてみればこの小説は完結してるってこと?」
「完結してるとも言えるし完結してないとも言える」
どっちつかずの彼の言葉遊びにはもう慣れた。
からん、と机上に万年筆が転がるのを見つめる。
アナクロな人だ、と思う。
昔、何故わざわざ万年筆を使うのかと尋ねたことがあるが、その時は
『漢字が覚えられるし、何より小説家っぽいじゃん』
と嘯いていた。
彼はただの破綻者なのに。
「俺の小説のテーマは『悲劇』なんだよ」
「読んだら解るわよ、そんなの。」
ちゃんと読んだんだ、と少し照れたようにはにかむ彼。
「まあ、要約すればぁ」
ギシリと木製の椅子が軋むのも気にせず彼はうーんともっともらしく思考を巡らすフリをして、言った。
「終わらないことこそ、最高の悲劇だろう?」
凄惨な笑みを浮かべた彼は指先で万年筆を弄ぶことに集中した。
私は、何も言わなかった。



完全悲劇主義者の享楽



20090326

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ