企画@

□8・だから怖くて動けない
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深夜、私は自室で紅茶の本を読んでいた。

導師様のように美味しい紅茶を入れるため勉強中なのだ。

いつかルーク様に美味しい紅茶を入れて差し上げるのが私の小さな夢だ。

『コンコン』

セイロンティーの由来を読んでいたら扉をノックする音が聞こえ、私は立ち上がる。

時刻は深夜を過ぎている。

常識を知る人間なら訪ねてこない時刻だった。

『コンコン』

開けるかどうか迷っていると、二度目のノックが聞こえた。

静かに鍵を開け、扉を開くと朱色の長い髪が目に入った。

「どうかしましたか?」

ルーク様を部屋に招き入れ、私は尋ねる。

鍵をかけ振り返ると、まるで扉に縫い付けられるように抱きつかれた。

「ルーク様?」

驚いて尋ねるように名前を呼ぶけれど返事は返ってこない。

仕方なく背中を撫でていたら小さく嗚咽のような声が聞こえてきた。

「みんなが前のルークとは違うって言うんだ」

突然、語り始めたルーク様。

「ルークはなんでも出来てたのに何で俺には出来ないんだって」

きっと不安になったのだろう。

「ナタリアも約束を思い出せってウルサいし」

だって今日はとても静かな夜だから。

「どれだけ頑張ってもみんなは早く思い出せって言うんだ」

きっとこの手を離したら、ルーク様は壊れてしまうのだろう。

「俺だって頑張ってるのに!」

それが怖くて抱き締められた手を振り払えない。

「ルーク様が幸せになれますように」

小さくつぶやくと、ルーク様は驚いた顔で私を見た。

にこりと笑顔で応えればルーク様は赤い顔をしながらも抱き締めた手を離さなかった。

「いつまでもルーク様のお側にいます」

だから神様、ルーク様が独りになりませんように。

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