文章

□無題
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青い。
青い。
空はどこまでも青く澄んでいるように思えた。
雲一つなく、見えるのは海とも違う色の群青だけだ。
他には何もなかった。それはまるで、自分一人だけ別の空間に居るように感じた。いや、そう感じていたかった。



―この青に包まれて自分はただ世界に一人きりなのだ―




彼にとっては、それは孤独ではなかった。むしろ、安堵させるものだった。
だから、彼は今日も学校の屋上で、空を見上げているのだ。
ただ、彼の気持ちをやすらげるために。
それは、一種の麻薬の様な中毒性を持っていた。
なぜなら、彼は空を見上げるといい行為を寝る以外の時間全てに費やしていたからだ。


青い。
青い。
青い………………
「晋二。」


彼の想像を中断される、ピシャリという声が屋上に木霊した。それは、一つの現実だった。つまりは、ここは、この青の世界は、彼だけの唯一の世界はではないという。
しかし、彼―晋二と呼ばれた青年―は絶望感や不満など、全く見せない無表情な顔で自分を呼び掛け、尚且つ、今傍らに立つ青年の方へ静かに向いたのだ。

「……晋二。」

立っていた青年は仰向けに寝ている晋二に視線を向けていた。
二人の視線が重なる。

「……晋二。」

青年はただ、晋二の名を呼び続けていた。
それは何故なのか、晋二はわからなかった。わからないから、視線は青年の方へ向けていたのだ。


やがて、群青の時間は終りを告げる。
雲の出現とともにまるで柑橘類のような太陽が現れ、青の世界はその色を変貌させていった。

その時、晋二はふと気付いた。青年は晋二だけの群青の世界が気に入らなかったのだ。だから、代わりに燈の世界を創造したのだ。それは多分、自分と晋二だけの世界なのだ。現に、この燈の世界には、晋二と、青年しか存在していないのだ。


晋二は、この時、産まれて初めて真に居場所を創造したのだと思った。今まで麻薬の様に心を魅了していた群青のことなど、全く頭になかった。全てが、美しく見えた。太陽も、町も、学校も、青年の横顔も………




「洋介。」


「ありがとう。」


二人だけの燈の世界には、晋二の静かな声が響きわたるだけだった。
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