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□冬の海に、
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海へ行きたい。

淳がとても苦しげにそう言ったので、俺はあいつひ従うしかなかった。






海の周りは今冬というシーズンのせいか、人が少なく、なにか物寂しく、暗い雰囲気だった。そんな静かな空間に、波の定期的な音だけが二人を包んでいた。


ふと、淳が達哉の背中から離れ、バイクから静かに降りた。それに合わせて達哉も降り、バイクを近くの道路に停めた。
停め終わり、淳が立っていた所をみると、そこには誰もいない。

「!!」

少し、パニックになりながら辺りを見回す。いつも、淳は自分が目を離した隙に居なくなる。まるで、夢遊病のようだった。こんなことは、達哉と淳が再会してから、日常茶飯事のようにあったのだが、慣れることなんてなかった。むしろ、回数が増えるごと、逆に不安になるのだ。淳が自分の前から居なくなってしまうのではないか。そして、もう会えなくなるのではないか。

だから、達哉は慌てて淳を探しだそうとしたが、周りに淳の姿はない。少し走って砂浜までたどり着くと、足跡が見えた。
多分、淳のものだろう。そう思って足跡を辿ると、海に浮かんでいる淳を見つけた。


「淳!!」


その姿を遠目で見たとき、達哉に戦慄がはしった。何も考えることができなかった。代わりに、彼の体は浮いている淳を助けるために、海へ入っていった。

淳の体を捕まえた達哉はその顔を見て、少し驚愕した。淳はこんな温度の低い海に浮かんでいる中、微笑んでいたのだ。


「…、淳。とにかく上がろう。このままだったら、風邪を引く」

そう言いながら、達哉は淳を引きながら、砂浜へと上がっていった。その間も、淳は微笑んでいた。


「達哉」

「僕はね、」

「君と一緒にいたい」

「一緒にいたいんだ」


達哉はその言葉を聞いて、淳に対しての苛立ちが募っていった。
達哉はあんなに真剣に淳に対応したのに、淳は全く悪びれずにせんな言葉を吐くのだ。

淳はきっと俺に苦労をかけていることを知らないのだろう。だから、俺にこんな仕打ちをする。


そう重いながら、見つめた淳の髪は、静かに風に揺れ、彼の深い色をした目をさらけだしていた。



あとがき
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