文章
□その沈黙が、全てを物語っていた。
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ゼロが、連れていった。お兄様の、お体を、遺体を、お兄様を殺したその手で、軽くひょいと抱え上げ、近くにいた、藍色の髪の、お兄様の側近だった人と、二、三言交し、去っていった。
優しく、優しく、とても慈愛に満ちていた、ゼロがルルーシュを抱く姿は。そう、カレンさんは言っていた。しかし、私には、分からなかった。いや、分かりたくなかった。
ただ、あの時、兄を殺すのだと、決心したのが嘘だったように、泣き叫んでいた。兄が死んだのも悲しくて、悲しくて、仕方なかったのだが、それよりも、あのゼロが、私のお兄様を殺したゼロが兄を連れ去って行くのが、嫌で、嫌で、堪らなかった。
(私のお兄様を殺したその手で、私からまた、お兄様を離すつもりか!)
それしか、私の頭にはなかったのだ。
ゼロが去って、しばらくしてから、コーネリアに鎖をとられ、私は王邱に連れていかれた。
その時は泣き疲れ、もう涙も出なかったのだが、そんな私にはこんなこと想いしか残っていなかった。
私は、一人になってしまった。
バン、と教会のドアが開いた。
黙祷を捧げていた少女が目を開き、静かに振り向いた。
「早かったな。スザク」
凛と空気を振るわせ、少女――C.C.はそう、仮面の青年に言い放った。
仮面の青年の腕には、血を流した青年が、静かに、静かに、抱かれていた。
C.C.はその様子を見て、静かに笑った。
「………ジェレミア、このオレンジ、腐ってる」
薄紅色の髪の少女がそう、青年に話しかけていた。
太陽が空の真ん中に位置し、とても暑い日だった。風も吹かないような、オレンジ畑に二人の人間がオレンジの収穫に精を出していた。
少女の声を聞いた青年は、そうか、では畑に捨ててくれ、と言った。
そう、言ってから鋏でオレンジを木から切り取る作業を止め、少女の元へとやって来た。
「…どうして、畑に捨てるの?」
少女が静かに青年に聞いた。青年は少女の真正面に立ち、手に持っていた、立派なオレンジと少女の持っていたオレンジとを交換し、
「腐ってていても、木を育てる肥料にはなるだろう」
そう言って、手に持っていたオレンジを、畑に投げた。
オレンジは小さな弧を描き、飛んだ。
「……この、オレンジは?」
少女は青年に問かけた。青年は、畑に向けていた体を、再び少女の方を向き、
「家で食べよう」
そう、まるでオレンジのような、明るい笑顔を少女に向け、言い放った。