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□枕5〜地、固まる〜
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「全てはトウヤから始まったって事か・・・」
 すっかり夜の帳が下りたとある街。その一角に建つ何の変哲も無い、ごくごく普通のアパートの一室には、どこか普通じゃない会話をしている部屋の住人2人。
「・・・トウヤが悪いって訳じゃない」
 それじゃ、余りにもトウヤが可哀想だ。ボソリと呟いたアキラが申し訳なさそうに顔を俯けた。
「でも・・・おかしな事を言い始めたのはアイツだろ?そのおかげでコッチは散々振り回されて−−」
 そこまで言ってからハッと思い横を見る。隣では俯いたままのアキラが、益々肩身狭く身を硬直させていた。
トウヤの問い掛けを必要以上に意識してしまい、誰にも言えずに悩んでいた本人を前に言うべき事じゃなかったと、ユキヒトは今更ながら自分の無粋さに呆れ果て、きつく内心で叱責した。

トウヤの言葉で自分の思いに気が付いたアキラ。
そのアキラとトウヤの仲を疑って心の中の思いに気付いた自分。
散々あって、漸くお互いの気持ちが通じ合った。
抱き締め合い、口付けを交わし、倫理や道徳や様々なものを乗り越えようとしたその時。
けたたましく鳴り響く電子音に一気に現実に戻された2人は、一先ずギクシャクと近場のソファーに腰を下ろしたのだった。
寝坊した時の為の最終保険の目覚ましを止め、何となく隣に座ってみたものの先程の続きを切り出すシチュエーションへの道がなかなか見つからない。
「ユキヒト」
「ん?」
 どこかへ飛んでいた意識を慌てて引き戻し隣を見ると、思いつめたような顔のアキラが此方をじっと見つめている。
「ユキヒトは今回みたいな事が無かったら俺と・・・その、アイツが言うみたいな関係にはならなかったって・・・思うか?」
 そう。きっかけは全てあのお調子者のたった一言。そのせいで自分達は悩み、疑い・・・でもそれはきっと。
「いや?遅かれ早かれ気付く時は来たと思うけどな。実際トシマで会った時から気になってたし、ここで暮らそうって言った時も・・・まあそん時は分かってなかったんだろうけど、俺はお前を離したくないとは思ってたから」
 自分はどうなんだよ?敢えて目は合わせず、視線を前に向けたままで聞いてみた。
知ってるんだ。あまりプレッシャーをかけると萎縮してしまうから、好きなタイミングで話し始めるまで待ってる。
どことなく気まぐれな猫を飼っている気分だ。
「・・・正直、男とか女とか、好きとか嫌いとか・・・今まで興味も無かった。イマイチどんな気持ちがするのかも分かんなかった。アイツに言われて初めて変に意識し出したけど・・・もしかしたら俺は、枕を並べてた時点で何かを期待していたのかも知れないって・・・」
 膝に置かれた手が、ズボンの布地をギュッと握り締めている。
緊張なのか力を込め過ぎているのか、小刻みに震えるその手をそっと上から握り締めた。横を向くと、恐る恐る視線を上げる顔と目が合った。
「お前、やっぱり大胆な事考えてたんだな?」
 アキラが新しい枕を買ってきた日、冗談で言った一言がまさか本当になろうとは。
言われた当の本人も、そのまさかに勿論困惑したであろう。紆余曲折を経た今、何だかとても遠回りをしたような気分だった。
「じゃ、本来の目的を果たすかな?あの枕で」
 握り締めた手を引っ張り上げ、ソファーから立たせるとユキヒトが眼だけでベッドを指した。
「行こう?アキラ・・・」
 一瞬の間の後、やっと言葉の意味を理解したのか、アキラの顔にみるみると朱が上っていくのが分かる。
「おま・・・・・・・・・そういうムードとか雰囲気とか全然ムシかよ・・・」
「何だ?アキラお前、そういうの結構気にするタイプだったのか」
「ばっ・・・!デリカシーの問題だって言って・・・うわっ!!」
 何時までもモジモジと立ち尽くす愛しい身体を、我慢しきれずに抱き上げベッドへと向かう。
ちゃんと食っているのかと疑いたくなる程に軽い身体。腕の中で硬直した姿はしいて言うなら借りてきた猫。
大人しく身を縮める小さな生き物に心の中で僅かな嗜虐心が頭を擡げる。
少々乱暴にベッドに下ろすと、そのまま噛り付く様に唇を重ねた。左手で細い両手首をまとめ、頭上で縫い止める。口内を弄り合うお互いの舌がとても熱い。
息苦しさに唇を離すと、糸を引くそれをそのまま耳元へと近づけ、囁き様に耳孔に舌を差し入れた。
「お前さ、少し乱暴な方が好きそうだよな」
「・・・っ!?何言って・・・んんっ・・・」
 耳門を舌先でなぞりながら、Tシャツを捲くり上げ空いている右手を滑り込ませる。
やわやわと胸の上を彷徨う指先が小さな突起に触れると、ビクリと身体が強張るのが分かった。それを敢えて無視してクニクニとそこを捏ね回す。
「っあ・・・!バカっ!・・・やめろよっ・・・」
 首筋を舐っていた顔を戻すと、中途半端に捲くり上げられていたTシャツを一気に抜き取り、押さえつけてあった手首に絡めるように巻きつけた。自由になった両手でそれぞれの突起を指で摘み、軽く弾く。
「・・・っ・・・やっやめ・・・んっ・・・あっ!」
 思わず漏れた厭らしい声に真っ赤になったアキラが顔を背けた。
その仕草にささやかな嗜虐心が存在を誇張し始める。
「男もここ、感じるのか?アキラ」
 意地悪な笑みを口元に浮かべたユキヒトの唇が、舌を這わせながら胸元へ下りてゆく。小さく色づいた突起まで来ると、舌先で押しつぶすように転がされた。
舌と指とで両方を責められ、腕の自由もままならないアキラは、いやいやと首を左右に振って抵抗するしかない。
それが益々、ユキヒトの中の黒い何かを煽り立てる。
「ふっ・・・んぅ・・・んんっ−−」
 顎を押さえつけ再び唇を合わせる。
舌先で歯茎を撫で、歯列をなぞり、深く突き入れ、口内中を犯す。バタつく脚を自分のそれで固定し、胸元から臍までを辿るように這わせた指をズボンのボタンに掛けた。
片手で器用にそれらを外し、余裕の出来たすき間から滑り込ませる。既に熱を持った其処を確かめると、一気に下着ごとズボンを引き下ろした。
露になった自分の下半身に、羞恥からかアキラの眼から涙が零れる。包み込むように握られ上下にゆっくりと擦られると、激しい口付けから逃れた唇から堪え切れない声が漏れた。
「んくっ・・・ぅんっ・・・やだ・・・やめ、ろっ・・・」
「ホントは嫌じゃないだろ?お前のここ、ちゃんと反応してる」
 クスッと鼻で笑うと、指の隙間から覗く先走りで光る先端に軽く口を付けた。チロチロと先端の割れ目を舌先で突付き、奥まで一気に咥え込む。
ワザとらしく音を立ててしゃぶられる聴覚と肉体に受ける感覚に、自慰とはまるで違う快感が押し寄せて内腿がブルブルと戦慄いた。
容赦のない愛撫は強弱を付け角度を変え、なおも執拗に続けられる。
「・・・ぅうっ・・・んぅっ・・・ぁもっ・・・ユキヒ、トっ・・・い、くっ」
 限界を訴えてアキラが腰を浮かせた。熱く滾るそれを口に咥えたままで、ユキヒトの口元がニヤリと歪む。
「イケよ、アキラ」
 同時に強く啜り上げられ、それに導かれるように熱い迸りが勢い良く噴き出した。放たれる瞬間、咥えていた口を離し手で全てを受け止めたユキヒトの指に、白濁した液体がしとどに絡み付く。
射精の余韻に浸り、息荒く喘ぎながらそれを見ていたアキラの視界から、その指が不意に消える。と、直後に奥の窄まりに細くぬめりを帯びた何かが当てがわれる感触がした。
考える間もなく、つぷり、とそれは進入を果たし体内で緩慢に蠢き出す。
「ぅあっ・・・な、何・・・?」
「ちゃんと解しておかないと、痛いんだって。アキラも俺も」
 言っている間にも指は本数を増して、狭い窄まりを広げるように忙しなく動き、やがてゆっくりと引き抜かれた。
初めての場所への異物感から開放され、ホッとした所へ再び何かが押し当てられる。先程とは全く違う熱くて太い何か。
覆いかぶさるように身体を倒してきたユキヒトが、頭上で留められていたアキラの手首の戒めを漸く解いた。
「手、俺の首に回して、早く」
「・・・?」
 言われるまま、軽くしがみつく形で腕を回す。
近づいた唇が合わされた刹那、太腿を押し開くように曲げられ、当てがわれていた熱いものが一気に押し込まれた。
体の中の空気が一斉に逆流して込み上げて来る様な圧迫感と、肉が押し裂かれる強烈な痛みに呼吸さえ忘れてしまいそうになる。
「・・・ぅぐっ・・・あ゛っあ゛あ゛あ゛っ・・・やっ・・・だ・・・ユ、キヒトっ・・・痛、いっ・・・痛いっ・・・」
「っ・・・くっ・・・力抜け、 アキラっ・・・もう少しだから、ちゃんと息しろ」
それで少しでも痛みが和らぐなら。
言われるままに何とか浅く呼吸を繰り返すと、次第に強張っていた筋肉が緩んでいくのを感じた。
そこを狙い済ましたようにユキヒトの自身が根元まで突き入れられる。
「うあ゛っあ゛、あ゛、あ゛・・・ぐ・・・」
「・・・すまない、アキラ・・・」
 涙でぼやける視界、すぐ近くに眉根を寄せて必死に何かを耐える様なユキヒトの顔。
大丈夫だ、ここはトシマじゃない。
あの日見た凄惨な場所でもない。この痛みは自分で望んだ事だと、目の前で生理的な欲望を必死で抑えているこの男に望んだ事だと言い聞かせる。
余りの痛みに外してしまった腕を、もう一度首に絡ませて自ら唇を寄せた。
「・・・も・・・大丈夫、だから・・・」
「アキラ・・・」
 動くぞ、吐息交じりの声が耳元で囁かれ、ゆっくりと揺す振られる。
その度、引き攣れた内壁が悲鳴を上げ、眼からは大粒の涙が零れ目尻を伝い落ちた。それを掬う様にユキヒトの唇が目元や額に口付けられてゆく。
「あ・・・ぁあ・・・んあっ・・・」
痛みで萎え切っていたアキラの中心が、突き上げられる度に互いの腹で擦り合わされ何時しか熱く息づいていた。痛みと異物感で支配された身体に甘い痺れが混ざり出し、もっと刺激が欲しいと自然と腰が揺らめく。
その変化に気付いたのか、ユキヒトの口元がニヤリと歪められ熱い吐息が囁いた。
「・・・触ってみろよ、自分でする時みたいに・・・ほら・・・」
「あっ、んっ・・・!!」
 グリグリと掻き回される様にして穿たれると先端が内壁へと擦り付けられる。前立腺を刺激され、すっかり痛みが飛んだ肉体には、すでに理性すら残されていなかった。
言われるままに手を伸ばし己自身の欲望を握りこむと、先走りで滑り切った肉茎を上下に擦り始める。
「ユ・・・ユキヒ、ト・・・あっ、くっ・・・」
「・・・いい子だ」
 手の動きに合わせる様に打ち付けられる腰の動きが、段々と力強さを増し速度を上げてゆく。
静かな部屋に響く卑猥な水音とスプリングの軋む音、厭らしい乱れた呼吸と喘ぎ声。
全てが他の住人に聞こえてしまっているんじゃないかという不安さえ、身体の奥から溢れ出そうとする欲望に火を付けた。
「うんっ・・・ふっ・・・くっ・・・あっ・・・も・・・もうっ・・・」
「っ・・・いい・・・俺も・・・くっ・・・」
 下で乱れる身体が自身を握る手に力を込めたのを見計らって一際深く穿とうとした時、快感にどこか一点を凝視するだけだった虚ろな視線と自分のそれがぶつかった。
涙で濡れた眼を細め、唇が何か呟く。
「・・・き・・・好き・・・だ・・・ユキヒ、ト・・・」
「!!」
 反則技に近いその言葉に、不覚にも先に達してしまった。最奥に迸る熱さを感じて、アキラもほぼ同時に滾りを放出する。
脱力感に引き抜く事も忘れてそのまま身体をくっつけた。2人の身体の間でピチャリと出したばかりの欲望が音を立てたが、それすら気に留める事も億劫で、軽く唇を合わすとそのまま引きずり込まれる様に眠りの沼へと堕ちて行った。
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