TEXT〜Others〜
□The last by beginningB前編
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すっかり夜も更けた駐輪場で、おぼろげな外灯の明かりを頼りにチェーンロックを外す。
カチャリと乾いた金属音が、誰も居ない空間に小さく木霊した。
「・・・・・・」
来た時よりも更に重く感じるのは、ペダルに掛かる足?それとも・・・
<The last by beginningB前編>
整った顔を、暫くじっと見つめていた。
向こうも、何も言わずにこちらを見ている。
ちゃんと話そう、そう決心したものの、俺はイグラの話をなかなか切り出せずにいた。
実際、死にに行くような話だ。何と言って良いものやら。
「−−サッサと言ったらどうなんだ?その用で来たんだろ?」
「んまぁ・・・大体は・・・」
それだけじゃないんだけどな。
俺は俺なりに、色々と先日のお見苦しい出来事の事とか考えてましてですね。
「あの、さ・・・その・・・名前くらいは聞いた事あると思うんだけど・・・この前チームの奴等と話し合って・・・」
「・・・イグラだろ?」
「はぃぃっ?!って、ユキヒトお前知ってたのかよ?あいつらイグラに参加しようって・・・」
「お前は知らなかったのかよ、リーダー」
「ぅぐ・・・」
正直、微妙だ。
悔しいけどチーム全体は見渡せても、個人個人で誰がどんな話を、なんてのは把握し切れてないかも知れない。
まさか此処までチームの奴等が一致団結してたなんて、実は考えてもいなかった事だった。
「・・・それで・・・ユキヒトはどう思う?」
「・・・」
「あ、いや、興味無かったり参加したくないってのもアリだと思うんだ!実際、そう思ってるメンバーだって居る訳だし、それ
ならそれで話し合いをもっと詰めて・・・」
「そう言うお前はどうなんだよ、トウヤ」
「・・・っ」
即答は出来なかった。
もちろん、無駄に死にに行くような場所に皆を行かせたくは無い。けど、ひょっとしたら大金を手に入れ、贅沢なこれから
の人生を考えてしまう自分も居る。
もし参加を中止したとしても、抜け駆けで行ってしまう奴も居るだろう。そんな奴等を放っても置けない。
メンバーを引っ張り、メンバーを守ってゆく。それがリーダーの務めなんだと思う。
「お・・・俺は・・・」
耐え切れなくなって逸らした視線が、ジーンズを握り締める強張った指先に落ちた。
俺、そうとうビビってんな。何か情けない−−−
「・・・別に行っても構わないけど」
「へ?」
弾かれるように向いた先に、いつも通りの無表情な顔。
吸い込まれそうな目の奥に、動揺とか不安とか躊躇とか、そんな感情は見当らなかった。
「だから、俺は別にイグラに参加しても良いって言ってるんだよ」
「あ・・・で、でも、無理にって訳には・・・。ちゃんと考えた方が・・・さ」
「特別、無理をしてるって感覚は無いけどな」
「・・・そう、なのか・・・?」
複雑な心境で再び膝へと落とした視界に、不意に白い手が映り込んで来た。握り締めたままだった俺の指の上に、重
ねられるように置かれたそれは、ほんのりと温かくて少し意外だった。
そのかわり、と耳元で囁かれた声に、ぞくりと背筋が粟立つ。
「な、何だよ・・・そのかわりって・・・お前、何か企んでる?」
「まあ、交換条件、ってやつかな」
「は?何と何が・・・交換条件なんだよ」
横を向いたら、唇が触れてしまうんじゃないだろうか。それ位の近距離でする会話に、果たして常識とか理性とか、どれ
だけ保てるかなんて自信が無い。
情けない話だけど、硬直したまま平静を装うのが精一杯だ。
「・・・向こうへ行ったら、俺は俺で好きなように動かさせて貰う。ただ、何かトラブルに巻き込まれた時には手を貸して欲し
い・・・それが条件」
「何だ?それ・・・。ユキヒト、お前何考えてんだ?トラブルって・・・何やろうとしてんだよ?!」
「大した事じゃない。少し確かめたい事と調べたい事があるだけだ」
「そんなんじゃ分かんねーよ・・・」
初耳だぞ?
ユキヒトがイグラを知ってた事も、そこへ行って何かやりたい事があったなんてのも。今まで、そんな話はおくびにも出さなかっ
たし、誰もそんなの気付かなかったし。
一体こいつは何をしようって・・・