夢1

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「やっぱここに居たか」


そう言う政宗に、私はぶすっとした表情で目だけを向けた。
顔は、絶対に向けない。私にだって意地がある。


「なぁ、怒ってるか?」


よっと、なんて言いながら、私が座っていた屋上、背を預けていたフェンスに下校する生徒達を見下ろしながら寄り掛かる政宗。
夕日が彼の横顔を照らしていて、なんだか大人びた雰囲気にする。

誰が近付いていいって言ったんだ。なんて思いながらも少し嬉しい。
…嬉しい?そんな訳ない。私が嬉しい訳ないでしょう?

いっつも私に付き纏って。
せいせいするよ、あの子とそのまま仲良くなれば?


「…なんで私が怒らなきゃいけないのよ」

「なんで、って…」


困ったような顔をして私を見下ろして苦笑い。
うんこ座りして、体育座りしている私と目線を合わせる。


「………なに」

「じゃあ聞くけどよ、アンタなんでさっきから機嫌悪いんだよ?」

「アンタの前ではいつもこうだっつーの」

「…確かに、真田の奴と話してる時は満面の笑顔だよな」

「それが何か」

「俺と話してる時は仏頂面だな」

「へぇ、会話してるつもりだったの?オメデトー」

「…照れてるのか?」

「なんで!!」


今の流れでなんでそうなる!ほんとめでたい頭だな、こいつ!
私はただ…、


「ただ、アンタのあんな顔初めて見たから…驚いただけ」


隣のクラスの子。
政宗と仲がいいらしくて、よくうちのクラスに顔を出しては政宗を呼ぶ。
それは前から知っていたし、別に気にかける事もしてなかった。

だってそうでしょ?私は別に政宗なんか好きじゃない!政宗も、私には本気な訳じゃない!
ただ、このやり取りを楽しんでいるだけ。


「…あぁ、見てたのか」


真剣な表情で、何か喋ってた。
よりにもよって、人気の無い放課後の空き教室。

戸締り当番になってた片倉先生に見事掴まって、私は手伝わされてただけだった。
怖いけど優しいけど怒ると恐ろしい片倉先生のために、奔走してただけ。あれ、結局怖い?

聞きたくもなかったよ、アンタのあんな真剣な声。
真面目な顔。私には見せた事ないじゃない。


「アンタはいっつもヘラヘラしてて…よく分かんない英語喋りまくって…!」

「よく分かんないのはhoneyの英語の成績が良くないからじゃ…うぉ!!」

「煩い!!」


私の鉄拳を避けやがった。
チッ、と舌打ちしたら「女が下品な事すんな!」と怒られた。アンタは私のかーちゃんか。


「私がいくら言ってもセクハラやめなくて!いっつも付き纏って!」

「……Ah?…セクハラって…」

「そんなアンタがさ…あんな、マジになっててさ」


――悪い。
――アンタの事、そんなふうに見れねぇんだ。


「いつか、さ…」


私をからかうのに飽きたら、さっさとどこかへ行ってしまうの?
こんな戯れも、もう出来なくなってしまうのか。


「…なんだ?」


やけに低い政宗の声に、心臓がトクリと、まるで今動く事を知ったみたいに脈打った気がした。
声に色気を孕んではいるのに、チラリと目だけで見た政宗の表情は穏やかで。


「…調子狂うなぁ」


そう笑えば、政宗はいつもみたいにニッと歯を見せて笑った。


「狂ってるだろ?もう手遅れだ」

「は?」

「俺に。…いい加減、認めろよ」


スッと頬を撫でられて、私は目を細めて初めて政宗の顔を正面から見た。
ちょっと切なそうに政宗も目を細めてる。


「俺を、見ろ」


政宗って、こんなキャラだっけ?
いっつも朝私より早く来てなぜか私の席でくつろいで。私の隣の席の筈だった長政君を買収(市ちゃんの隣の席を確保して)(一体どんな手を回したんだ…)、授業ごとに教科書忘れたとか言って机くっつけてきて。

ウザイ奴。おもしろい奴。面倒な奴。楽しい奴。
…それで、


「真田なんてやめとけ。あいつは花より団子の代表選手だぞ」

「なんて競技の代表だよ」


…ん?ちょっと待て。こいつ今何て言った?


「ちょ、ちょっと待ってよ!」

「待たねぇ…もう十分待っただろ?」


近付く政宗。
ち、違う、その事じゃなくて。いやこれも待ってほしい状況ではあるけど…!!


「あの、今なんて言ったの!?」

「……だから、もう十分…」

「違う!真田君がなんとか…って」


政宗は近付けていた唇を止めて、目をパチクリとさせた。
こんな表情もするんだ…今だけは、純粋な青少年に見えるよ。

いつもは「Hey,honey!! I love you everyday!!!!」…なんて言いながら突っ込んでくるストーカー野郎だったのに。
なんか脳内ドロドロした妄想で支配されてそうなのに。


「…真田が、好きじゃないのか?」


ふと触れ合った手を退かそうとしたら、政宗にギュウっと握りしめられた。


「ちょっ…」

「どうなんだよ?」


耳元で響く低音に、私の背中でフェンスがガシャンと揺れた。
もうこれ以上、後退出来ない…。

距離も。気持ちも。


「真田君がなんで出てくるのか、謎なんだけど。アンタ…私が真田君が好きだと思いながらそうして迫ってきてた訳?」

「真田が好きなのかと…」

「や、確かに犬みたいで可愛いよ。昔近所で飼われてた太郎に似てる」

「太郎…」


哀れ、とでも言いたげに空を切なげに見上げる政宗。
なにさ、本当の事じゃん。
逆に、真田君は私の事をエサ(おやつ)をくれるイイ人としか思ってないに違いない。
あいつめ、時々私の鞄をキラキラした目で見てくるからね。


「…まぁ、本当に真田が好きだったとしても、今こうしてるだろうけどな。当たって砕けろ、だ」

「本当に砕いてやろうか」


いつも通りに返して笑ったのに、目の前の男はちっとも笑ってなくて。


「どうせなら粉々にしてくれ。アンタ以外、いらない」


…っ。
なんてこと言うんだ、この男。
そんなクサイ台詞をさらりと言ってのける上に似合うのは、この男の容姿もさることながら行動も相まっての事かもしれない。

まるで祈る様に私の手を持ち上げて口付けるこいつは、間違いなくいつも変態と罵ってふざけあっていた級友に間違いないのに。


「アンタが手に入らないなら、粉々になって散った方がマシだ」

「…本気?」

「いつも本気でアンタを見てた。…あんだけアピールしてたのに気付いてないとは言わせねぇぞ」

「分かりづらいっつーの!てっきりからかわれてるかと…!」

「本気って分かった今、どうなんだよ?」


今?…ばかじゃないの、こいつ。マジで。


「なぁ…」


ガシャン、と私の横についた政宗の手がフェンスを押す。
そんな目で見られたって、私の答えは変わらないのに。


「あんた、正真正銘アホでしょ」

「…今言うか?それ」

「今言わないでいつ言うの、アホ宗」


苦笑いして見下ろしてくる政宗の、目の前にあるネクタイを引っ張って更に顔を近づける。
ふいと顔を逸らして、そのアホ面の頬に唇を付けた。

前に一度だけ、アンタにやられたよね。
ちょうどここで、私が昼寝してたら。あの時のアンタ、してやったりって顔してた。

でも私は、今そんな顔出来そうにないよ。


「……………あ?」

「本気じゃなかったとしても、…アンタの事は好きになってたよ」


もう、アンタのいない生活なんて、つまらなすぎるよ。
もっと側に居てよ。もっと笑わせてよ。

ずっと、ずっと。


「……あは、間抜け面。写メ撮っていい?」

「な、ちょ、…無理」


フイと顔を背けた政宗に安心して、私もちゃんと顔を向けた。
まだ、正面からは見れないけど。私今絶対顔赤いからね。


「……なぁ、ちゃんと俺見ろよ」


クイ、と顎を持ち上げられて、私は慌てて政宗を突き飛ばした。
筈なのに。ビクともしなかった。


「ちょ、」

「もう我慢出来ねーんだよ、自覚しろバカ」

「バカってアンタねぇっ、んーっ!」


上っ面だけじゃない。
冗談なんかじゃない。

アンタは全身で、私に伝えてくれてたから。
私も伝えてあげてもいいよ。


「イッテ!つねるなよ!」

「無理矢理キスしてくるのが悪い!」


グイ、と手を背中に回して抱きつく。
鋭いアンタなら、これで気付くでしょう?変な所で抜けてるから、また違う方向で考える?そしたらまたアホ宗って言って、ちゃんと伝えてあげるよ。


「…っ、おい、」


好きだよ、って気持ちを込めて、ね。


「は、離れろって…」

「アンタいつも散々ベタベタしておいて…」

「俺からすんのとされるのは違うだろ!(色々ヤベェっつーの!)」

「素直じゃないんだから」

「お互い様だろ」







ま、そんな君だから好きだけど?









--あとがき--
今回は政宗様にしてみました!
ツンデレな主人公と押せ押せ政宗でしたが、ツンデレ初めて書きました。
た、楽しい…!!何か目覚めた気がします(笑)






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