夢1
□拍手SS
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「おい、帰るぜー」
「あ、うん」
私の机に来て空っぽの鞄を担いで言うのは、私の幼馴染みの政宗。
二人で登下校するのがいつの間にか当たり前になっていて、こうして並んで靴箱に向かうのはいつもの事。
踵がぺたんこの上履きを仕舞おうと靴箱を開けた政宗の目の前に、ヒラリと舞う一枚の紙。
それはゆっくりと床に落ち、私はその文面を見て目を丸くした。
「良かったらメールください。1年C組、いつき…ってこの子!超可愛いので有名なあの子!?政宗のくせに!」
「なんだよ、政宗のくせにって!」
アドレスの書かれたそれを拾い上げ、無造作に靴箱に再び仕舞う。
「え、ちょっ…何で元に戻すのよ!」
「Ahー?…また今度ちゃんと見るって」
慣れた様子で大して動揺せずに歩く政宗に、私は少し苛立ちを感じた。
「…これが初めてって訳じゃなさそうだね」
「どうだったかな…忘れた」
「忘れたって…」
それだけよくあるって事じゃないの?
「政宗は誰かと付き合わないの?」
「そうだな…今は、付き合えそうも無ぇな…」
「じゃあ、好きな人は?」
何気なく聞いたつもりだったのに、政宗はピタリと立ち止まると憎たらしい程カッコイイ笑みを浮かべていた。
「居たらどうする?」
口の端を片方だけ上げる様は、そのモテっぷりを納得させるに十分なものだった。
「…別に。どうもしないよ」
フイ、と顔を反らして再び歩き出すと、政宗に突然手首を強く掴まれて驚いて振り向いた。
「じゃ、俺があのいつきって奴と付き合ってもいいんだな?」
「な、何で私にそんな事言うのよ…付き合えば!?政宗がその子を好きならね!」
「…OK.そうする」
「え…?」
頭が真っ白になった私を置いて、政宗は冷たく言い放つと私の手を解放して歩き始めた。
さっきよりも早足で、私も歩き始めたけど中々追い付かない。
まるで二人の心の距離を表すように、その間は広がる一方。
小さい時からガキ大将だった政宗が、いつの間にか私に歩幅を合わせて歩いてくれるような男性に成長してた事に、今頃気付いたなんて。
「政宗…」
小さく名前を呼んでみた。
聞こえなかったらしくて、政宗の足は止まらない。
「政宗っ」
もう少し大きな声にしてみた。
絶対聞こえているくせに、それでも歩き続ける。
私はたまらず走り出した。
「政宗ってばっ」
ガシッと後ろからしがみつき(抱きつくなんて可愛らしいものじゃない)、滲んできた涙を隠した。
いつの間にか、背中も私なんかより大きくて、逞しくなってた。
「何だよ…って何泣いてんだ、お前!」
慌てる政宗に引き剥がされ、私は我慢していた涙を溢した。
「やだ!」
「What?」
「いつきちゃんと付き合っちゃやだ…!」
ぐずぐずと下を向いて涙を拭う私の頭に、政宗の豪快なデコピンが叩きつけられる。
「てっ!」
「ばーか、嘘に決まってんだろ」
「…へ?」
「お前の泣き虫は変わってねぇな…もちっとcoolな女になれよ」
皮肉って笑う政宗に、私は再びヘソを曲げた。
もっとちゃんと機嫌を直しにかかってくれるまで、今度は私から謝ったりしない…!
(お互いじれったい…)
(拍手ありがとうございました!)