Harry Potter
□逸話
1ページ/1ページ
聖マンゴ魔法疾患傷害病院。
5階、呪文性損傷の病室が並ぶ廊下を進んだずっとずっと奥─
重い扉をくぐった一番奥の突き当たりの病室。そこがナナシ・セイナシの病室。
ナナシは生まれてこのかた、病院の外にでたことがない。
所謂、不治の病らしい。ナナシはそう聞かされ、一向によくならない身体に納得するしかなかった。
「ねえ、せんせい。ほんがほしいとおもうとほんがとんでくるの」
幼いナナシがそう言って、お気に入りの絵本を空中でクルクルと回す。癒者は彼女に魔力があることを知り、魔女の素質があることを教えた。それからナナシはほぼ独学で魔法を学んだ。
それしかすることがないと言っても過言ではない。
未成年で就学前のナナシは実技こそできないものの本を読み漁り、簡易的な実験道具まで揃えてもらい来る日も来る日も治療に、そして勉学に励んだ。
「わたし、ホグワーツへ行けるかな」
独り言ともとれるナナシの言葉に癒者は悲しげに顔を首を横に振る。
「…うん。ごめんなさい、わかってる」
儚げに微笑むナナシは申し訳程度に設けられた窓を見た。
それから幾年か過ぎ、ナナシは11歳の誕生日を迎えようとしていた。
一向に眠気がやってこない。諦めたつもりでも希望を棄てきれなかったのだ。
時計の針がカチリ。
その音がやけに大きく聞こえてナナシは息を飲んだ。
胸を押さえる手元。
ドキドキと高鳴る鼓動に手が震える。
震えるナナシが胸に抱いていたのは、ホグワーツからの手紙だった。
─こうしてナナシは外の世界と交わりセブルス・スネイプを知ることになる。
逸話END