Harry Potter
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目を開けると、そこは見慣れたくすんだ白い部屋だった。
ベッドの背もたれを起こし、座っていたナナシは膝に置かれた本を撫でた。最後の瞬間セブルスがしていたように。
ナナシは泣いていた。
恋愛の神様だなんて、あれこれやってきたけれどそれらは全て無駄に終わってしまったから。
けれど、あの時セブルスは何を言ったのか。
何故、あんなに優しく本を撫でていたのか。
そして何より、嘘をついたまま別れてしまいたくなかった。
「ゼブルスに、会わなくちゃ」
本は閉ざされた。ナナシは赤のそれをベッドにそっと置いた。
ベッドから降りると床の冷たさに驚くも、白い壁と同化している重い病室の扉に力を入れる。硬く閉ざされていると思った扉は音もなく開き、真っ白な廊下に出る。誰もいない廊下。ナナシ以外音を発するものはない。
恐る恐る足を進め角を曲がる。すると、同じように続く真っ白な廊下、その両側に互い違いにナナシがいた病室と似た二つの扉。その存在に驚きながらも進むと廊下の先に木製の扉。ナナシはそっと耳をあてる。
(人の気配はない、かな…よし)
鈍く光る取っ手をそっと回した。扉の隙間は、外だった。
はじめて感じる風や匂い、そんなものに感動する間もなくナナシは物陰に隠れ、時おり近づく人の気配に息をのみ、頃合いを見計らって走った。緑が街並みに変わる頃、もともと体力のないナナシは襲い来る目眩や吐き気にとうとう、足を止め座り込む。
(セブ、ルス…行かなくちゃ…)
動かない身体と焦る心。悔しさから視界が涙で滲む。
口許を拭えば、鮮血が目についた。
それでもずるずると這うように進むナナシの目の前に人が現れた。
「…ぁ…ダン、ブルドア、先生?」
視線を上げた先に居たダンブルドアは静かに口を開いた。
「その通りじゃ、ミスセイナシ」
すべてを見透かす様な瞳の見つめられ一瞬、たじろぐナナシ。しかしナナシの口調はハッキリとしていた。
「私を、ホグワーツへ連れていって下さい」
「無論。…君はホグワーツの生徒じゃ、断る理由はないのう」
そう言ったダンブルドア校長は左手をナナシに差し出した。
切れそうになる意識をつなぎ止め、ゼブルスを想いながらタブラは手を重ねた。