その他

□八つ当たり
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帰ってきた静蘭はかなり殺気立っていた。
宿の者達が近付くのを躊躇うほどに整った顔を歪めていた。
「お前、姫さんに手ぇ出されたからってキレすぎじゃないか?」
しかしだからといって遠慮して気をつかうような燕青ではない。
容赦なくスバズバと静蘭を切っていく。
「まぁ朔は顔だけはいいし、受け止めるだけだったお前よりゃ押しまくった朔に姫さんが惹かれんのも可笑しくはねぇな。それに」
「お前ごときに俺の何が分かる!!!」
静蘭は燕青の言葉を遮るようにして怒鳴った。そして何の手加減もなしに思い切りぶん殴った。
殴り飛ばされた燕青は切れて血の味のする唾を外に吐き出して笑った。
「ホントキレたら容赦ねぇなぁお前。」
「煩い。」
静蘭は低く呟いて外に出ようとした。
それを燕青が遮る。
押し退けようとしたが、力の差は意外と大きく燕青はびくともしなかった。
「退け、むしろ失せろ。」
殺気を燕青に向けて言うが、動く気配はなく、ヘラヘラ笑っていた。
静蘭は諦めてベッドに腰をおろすとそっぽを向いた。
殺気が収まってきたころを見計らって燕青がふざけながら言う。
「八つ当たりは俺だけにしろよ。」
「ふん、言われなくともお嬢様に当たるほど馬鹿じゃない。」
どうやら殴ったことで多少気が晴れたらしい。
「そりゃそうだ。でもまぁそろそろ俺にも当たらないで済むようになれよ。」
「お前がお嬢様ぐらいの大物になれたら考えてやる。」
辛辣だ。
17歳から10年間も茶州牧を勤めていた燕青を小物扱いとは。
燕青は軽く笑うと呟いた。
「こんだけ八つ当たらせたんだからちょっとぐらいいいよな。」
「は?」
何のことだ、という前に静蘭は燕青に押し倒されていた。
起き上がろうとするが、手も足もがっちり抑えこまれているため全く動かない。
「どういうつもりだ燕せぃ、ぅむ」
唇を強引に押し付けられ言葉が途切れる。
お世辞にも上手いとは言えない口づけを何度もされて、静蘭は強姦されているような気持ちになった。
息が上がって顔を真っ赤にしていると燕青はニヤリと笑った。
「ちゃんと上手くやってやろうか?男じゃ嫌だろうから適当にしたけど、お前そうでもなさそうだし?」
「っっ!!!」
静蘭が答えられないでいると燕青は優しく微笑んで頬を撫でた。
そして今度はそっと、優しく口づけた。
「さぁて、一丁ヤっちゃいますかぁ!!!」
燕青は楽しそうに言って静蘭の服を脱がせ始めた。
驚いた静蘭は抵抗しようと試みるが全く動けない。
それを見て燕青は安心しろよ痛くしないから、と微笑んだ。
そういう問題じゃぁない。
口づけだけならすぐに離れられるけど、それ以上だと無理だ。
こんな時秀麗や影月が入って来たら大事だ。
いや、影月ならまだいい。
秀麗だったら最悪だ。
誤解だけで済まないかもしれない。
「ちょっと待て燕青お嬢様が来たら」
「燕青入るわよー。ちょっと聞きたいことがー…」
静蘭の嫌な想像大当りだ。
入って来た秀麗の目に映ったのは半裸で燕青に押し倒されている静蘭。
そしてニコニコと微笑んであちゃーと頭を抑える燕青。
どんなに鈍感な秀麗でも分かってしまった。
自分はちょっとお邪魔してしまったということを。
「えーっと、やっぱりコレ私達二人でちゃんと考えるわねっっ!!!お、お邪魔しました!!!」
秀麗は静蘭が言い訳する暇も与えずさっさとでていってしまった。
静蘭はその途端続きをしようとのしかかる燕青を頭突きで撃退し、手早く服を着て布団をかぶって部屋の隅にはまり込んでしまった。
静蘭が復活するまでに燕青は10発以上殴られ蹴られしたが、それはまぁ正当な怒りのはけ口ということで。


その後静蘭は秀麗の誤解を解くため極力燕青から離れて過ごしたのだとか。

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