その他

□薔薇姫
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雷の酷い日だった。
失うことが怖くて仕方がなかった。


「邵可は薔薇姫という話を知っているか?」

毎日府庫まで顔を出してくれる劉輝は決まって秀麗の話をする。
今日はこんな話をしてくれたとか、今度はあんなことをしたいなぁとか、隠すことなく色々と。
勿論、自分に心配させない為か、良くない贈り物のことは少々控えつつだが。
だから、薔薇姫の話を切り出されたときも秀麗から聞いたのだろうな、とは思った。
しかし珍しく動揺してしまいニコニコ微笑んでいるだけになってしまった。

「…邵可?」

不思議そうな顔の劉輝を見て、何故か昔を思い出した。

囚われていたあの人に一目惚れした。
殺すために忍び込んだはずなのに鎖をといて連れ出してしまった。
散々けなされた。
それでもいつしか夫と認めてくれるようになった。
愛しあっていたのだと思う。
そして秀麗が生まれ、静蘭を拾い、質素ながらも幸せに暮らした。
秀麗は病気がちで心配しっぱなしだったが。
あの日、あの人も秀麗も体を壊していた。
雷と共に去っていったあの人の命は秀麗に宿った。
今、秀麗は元気だ。
たまに落ち込んでいることはあるが、それでも頑張っている。
私とあの人は男と薔薇姫だった。

「おーぃ邵可?」
劉輝の声で、我にかえる。
「あぁ、知っていますよ。」
答えると劉輝はそれなら、と話し始める。
少し切なそうに、でも微笑んで。
「男は幸せだったろうな。薔薇姫は薔薇になってしまったが、その命を貰った子供と一緒にいられた。何より、好きな相手に愛されていたのだ。」
誰からも愛されなかった昔を思い出したのだろう。
敬愛する兄がいなくなってひとりぼっちになってしまったあの時を。
しかしそんな劉輝とは裏腹に自分の心は少し暖かくなった気がした。
「主上、うちの娘をよろしくお願いします。」
「ん?…言われなくてもそうするつもりだったのだが。流石、邵可の娘手強いな…余のことなど眼中にないみたいだ。」
それは実は劉輝の勘違いで、秀麗も結構劉輝を気に入っているようなのだが、邵可は曖昧に笑っておくことにした。


失うことが怖かった。
けどどうやら私は君を失っても幸せを拾えたようだよ。
ずっとずっと愛してる。
私の薔薇姫…

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