その他

□古泉一樹の変革
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朝比奈さんとラブハプニングがあった。
とはいっても、よろけてこけそうになった朝比奈さんを受け止めようとしただけだ。バランスを崩して結局はこけてしまったので格好悪いことこの上ないが、お陰で俺は押し倒された格好になっていた。これをラブハプニングと言わずしてなんという。このまま朝比奈さんフラグが立ってくれればハッピーエンド間違いなしだ。
しかしそうは問屋がおろさない。というより、天上天下唯我独尊、傍若無人で猪突猛進な我等が団長涼宮ハルヒが許さない。
朝比奈さんが本当にすまなさそうな顔をして俺の上から飛びのくより先に、部室のドアが開いた。

「みんなーもぅ来てるわねー!!!」

何も知らない奴が見たら惚れてしまうであろう100万ボルト級の笑顔で入ってきたハルヒは一瞬にしてその笑顔を凍らせた。
その斜め後ろで古泉が肩を竦めて首を振っている。
朝比奈さんは予想を裏切らず、かわいらしく叫ぶと俺から飛びのいた。残念だなんてちっとも思ってないぞ。
ちなみに長門は空気と同化しながらいつもの様に分厚いハードカバーの本にチャレンジしていた。

「何してるの馬鹿キョン!!!」

いや、むしろされてる側に見えなかったか?俺には朝比奈さんに押し倒して貰いたいーだなんていう不純で不埒な馬鹿げた欲望はない。もしこれが谷口ならわからんが。

「そういう問題じゃないでしょ!!!」

ハルヒは壁を壊れるかと思う勢いでバンバン叩く。
もう俺にはどうしようもない。
こういう時は、ハルヒのご機嫌取りのプロである副団長に後を任せるべきだ。
黙って、ハルヒの斜め後ろに突っ立っている古泉と目を合わせるとやれやれとでも言いたげに俺とハルヒの間に入った。

「涼宮さん、少し誤解をされていますよ。」

ハルヒはなんのこと?と首を傾げる。
何を言い出すのかは分からなかったが、ハルヒの機嫌を損ねて迷惑を被るのは俺より先にまず古泉達だ。
自分に悪いようにはしないだろう。

「この方は、女性ではなく男性の方が好きなのですよ。」

信じた俺が馬鹿だった。
とりあえず、いつものようにニコニコと嘘臭い微笑みを浮かべている古泉を連れて部室をでる。
最後に少し見えた部室の中では、ハルヒが難しい顔をして腕を組み、とてつもないショックを受けたような朝比奈さんが目を丸くしていた。俺として一番ショックだったのはそのどちらでもなく、どんな騒ぎの中でも黙々と本を読んでいるはずの長門がこちらを見ていたことだった。
古泉の制服を掴んだまま階段まで行き、しゃがみ込む。

「お前は俺をド変態に仕立てあげるつもりか?」

本当に馬鹿なことをしてくれたもんだ。
押し付けたのは俺だから、あまりきつくは言えないが明日からあのメンバーに合わせる顔がない。

「すみません。僕も少々焦っていたものですから。」

訳が分からん。まさかお前まで俺が朝比奈さんに押し倒されたい変態だとでも思ったのか。

「いえ、そういう訳ではないんですが…」

古泉は古泉らしからぬ態度のままで、こちらもどうしようもないことになってしまったので俺は帰るしかなくなった。
部室に置きっぱなしの荷物は、流石にいたたまれないので古泉に取って来てもらった。
溜息をつきつつ帰ろうとすると後ろから古泉が着いてくる。

「お前も帰るのか?」

古泉は俺の横に並ぶと、いつもの笑顔を浮かべた。

「はい。先程閉鎖空間が発生したと連絡が入ったので。」

今回は俺のせいじゃない。

「えぇ。僕がおかしなことを言ったせいで
すね。仲間にどう言い訳したら良いのやら。」

言い訳なんてせず、正直に言えばいい。
お前の仲間に嘘臭い笑顔が通用するかどうかは知らんがな。

「そうですね。おっとお迎えが来たようですので僕はここで。」

見ると、荒川さんがタクシーの運転席に座って校門の前で待っていた。対応が早いというか神出鬼没というか。
荒川さんの本当の職業が気になるところだ。

「それではまた明日。」

タクシーに乗り込む古泉を見送って俺も家に帰った。
明日どうするかは考えないことにした。
まさか、何も起こるまい。
そう思い、眠りについた。
しかし、SOS団にいる限り、涼宮ハルヒの近くにいる限り、予想は裏切られるためにあるというのを俺は忘れていた。
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