その他
□兄弟の絆
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「お前何てもぅ知るか!!!俺は1人で行く!!!!!」
そう言い放ち、旅の途中で寄ったロックベル家を出てきたのはつい昨日のこと。
1人で行くと言ったが、残念なことに賢者の石に関する情報は何も入ってきておらず、イーストシティにいるだろうと思われる知人の所へ向かうこととなった。
出来るだけ頼りたくないのだが、根無し草の自分には安定した情報源など他にはいない。
駅に着くと、呼んでもいないのに見慣れた青い軍服が目に入り顔をしかめる。
少人数ならただの見回りだろうと思えるのだが、人でごった返すそこにいたのは軽く10人を越えていた。
ただ事ではなさそうだ。
「鋼の?」
一番聞きたくなかった声に呼ばれ渋々振り返る。
すると声の主は不思議そうに眉を寄せた。
「アルフォンス君はどうしたんだ?見あたらないが。」
「リゼンブールに置いてきた。ちょっと喧嘩して…それより大佐、コレは一体何の騒ぎだ?」
「リゼンブールか…それは好都合だ。アルフォンス君がいれば何かあっても大丈夫だろうな。」
エドワードにはロイの言っている意味が分からない。
アルフォンスがリゼンブールにいるから何が大丈夫なのか。
黙って睨んでいるとロイの後ろに立っていたハボックが面倒くさそうに頭をかきながら説明した。
「例の傷の男が貨物列車に紛れて南へ向かったっていうガセっぽい情報が北の方で入ったんだと。それで、万が一本当だった時の為にこうして警備してる。」
「スカーが!!?」
エドワードは聞いた途端一気に狼狽えだした。スカーが南へ向かうと不味いのか。弟のアルフォンスがリゼンブールにはついているというのに。アルフォンスならそう簡単にスカーにやられたりはしないだろう。ロイ達にとって心配なのはリゼンブールより南方の司令部が狙われることだった。
今、あそこには何人か錬金術師が行っているはずだ。彼らごと南方司令部を潰される訳にはいかない。
「お、俺リゼンブールに戻る!!!!!」
「何を言っているんだ。万が一情報が本当でもリゼンブールにはアルフォンス君がいるのだろう?心配しなくても…」
「アルは今戦えねぇ!!!…その…俺が、…壊したまんまだし…」
声がどんどん小さくなっていく。一体どんな喧嘩をしたら破壊したまま置いてくるようなことになるのか…。
「…どの道、君はリゼンブールには帰れない。」
「何でだよ!!!スカーが国家錬金術師を狙ってるからだっていうならそんなもん知らねえぞ!!!」
「それもあるがな、今列車は全て止まっている。もしスカーが南へ向かったのだとすると…途中で止まっている可能性が高いな。」
スカーがどの列車に乗っていたのかは分かっていないが、経路によってはリゼンブールがかなり危ない位置にあるのではないのか。
エドワードが頭を抱え込んでいると、1人の軍人がロイの所へ近寄り小さな声で報告した。
ロイはそれを聞いて顔色を変えるとすぐに車を用意するよう命じた。そしてエドワードの方を向くと今聞いたことを伝える。
「スカーの目撃情報がとれた。場所は…」
*
アルフォンスは壊れた左腕を眺めながらエドワードのことを考えていた。
喧嘩っぽいことをしたのは久しぶりだった。
たった2人っきりの兄弟だったから、失すのが怖くてあまり色々言えなかった。
エドワードは元々怒りっぽいから、じゃれあうことは度々あったが。
「流石に今日のは僕が悪かったよね…」
不注意で左腕を壊してしまった兄に、弱気な所を見せた。
本当に戻れるかな、と尋ねると、エドワードはいつものように笑って「当たり前だろ、俺が絶対アルを元に戻す。だから心配するなって」と言ってくれた。
しかし、なかなかあがらない成果に精神的に揺れていたアルフォンスはその言葉が軽すぎると思ってしまった。
「兄さんは…まだいい方だからそんなに簡単に言えるんだよ。体丸ごと持っていかれた僕とは違うから、心配するなとか言えるんだ。」
エドワードが怒るのも無理はなかった。
アルフォンスはエドワードがどこに行ったか見当がついていたが、追いかけることはできなかった。
(兄さん、戻ってきてくれるよね…?)
その時、アルフォンスは背後に殺気を感じ立ち上がる。振り向くと、そこには額にバッテン傷のある男がいた。
「スカー!!?」
「鋼の錬金術師はどこだ」
スカーはアルフォンスに近付きながら尋ねる。アルフォンスは少しずつ退がりながら怒鳴った。
「兄さんはいないよ!!!喧嘩して出て行っちゃったんだ!!!」
事実を教える必要はないが、この方がウィンリィ達は安全だ。
エドワードはおそらく東方司令部の人達と一緒にいるだろうからスカーがそちらに向かったとしても殺される心配はないだろう。
スカーは意外にもあっさり引き下がった。
「そうか…」と呟くと殺気を消した。
「兄というのはいつも勝手なものだ、」
いきなり言われ、何のことだか分からなかった。スカーは懐かしそうな表情でアルフォンスを見ている。
まさか、エドワードと喧嘩したことを言っているのか。怒ったエドワードが出ていってしまったことを。
「アルー?」
ウィンリィが呼んでいる。
咄嗟にスカーを空き小屋へ押し込んでしまった。
「ウィンリィ!!!僕ちょっと散歩してくるね!!!!」
それだけ叫ぶと返事を聞く前に自分も小屋へ飛び込んだ。
スカーは不思議そうにしている。
「何をしている。」
「僕にも分かんないよ。さっきのだけど、今日の喧嘩は兄さんが悪いんじゃないからね。僕が、馬鹿なこと言ったから…」
「…兄というのは勝手だ。自ら危険をおかす。そのせいで弟がどんなに心配しているかも考えずに。」
スカーは遠く昔を思い出すように目を伏せた。
どうやらスカーにも無茶をしまくる兄がいたようだ。
「あなたはどうして国家錬金術師を殺すんですか。」
アルフォンスはスカーに殺意がないことを察し、疑問に思っていたことを聞いた。
スカーは突然の質問に驚いた顔をしながらも、律儀にアルフォンスの問いに答える。
「兄はイシュウ゛ァール戦滅の時国家錬金術師に殺された。兄だけではない。何もしていないイシュウ゛ァールの民が無慈悲に殺されていった。…罰されねばならんのだ。国家錬金術師は。」
スカーは怒りに満ちた目で、憎しみに濁った赤い目でアルフォンスを見ていた。
殺されたから殺す。イシュウ゛ァールは未だに悲劇を連鎖させているのだ。
アルフォンスにもスカーの気持ちが全く分からない訳ではなかった。
それでもスカーは間違っていると思った。
「あなたの言うことは分かります。僕だって兄さんが殺されたら相手を殺したい程憎むと思う。でも、きっと兄さんはそれを望まない。」
アルフォンスは一息ついて、それから続けた。
「あなたのお兄さんもそうだと思います。」
スカーは黙って扉に手をかけると振り返らずに言った。
「それでも、己れは戻れぬ。」
スカーは空き小屋から出ていき、アルフォンスが出た時にはすでにどこかへ行ってしまっていた。