その他
□彼岸花
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「雷鳴、彼岸花の花言葉を知っているかい?」
雷光はいつも通りのちょっと胡散臭い微笑みに少しだけ悲しみを浮かべながら訊いてきた。
もちろんそんなもの知るはずがない。
意地の悪い兄はどうせ知っていて訊いているのだろう。
睨みながら「知るか!!!」と返そうとすると、それは途中で遮られた。
「『悲しい思い出』という意味があるんだけれど、私が言っている意味が分かるかい?」
「……」
きっと、清水家のことだ。
今はもうない清水の家のあったところには辺り一面の彼岸花。
アレは雷光にとって悲しい思い出なのだろうか。
あのことを悔やんでいるのだろうか。
雰囲気に流されてしんみりしてしまうと、雷光は軽く頭を叩いてきた。
「お前までそんな顔をすることはないんだよ。」
「…」
「あの時の事は忘れられない。でもずっと考えていてはいられないんだ。私にとっても雷鳴にとってもアレは過去だからね。」
「でも…!!!」
反論しようとすると、雷光は静かに首を振ると言った。
「あの事で私を憎んでいても構わないよ。でも私だって自分のやった事が全て正しかっただなんて思ってはいないんだ。…それだけ分かっていて欲しいんだ。雷鳴は妹だからね。」
勝手だ。
何かあったなら言ってくれたら良かった。
そうすれば何も分からないまま1人だけ残されて、実の兄を憎むことはなかった。
「何でそうやって…」
何故だか悔しくて俯くと雷光は優しく頭を撫でた。
「すまなかったね、雷鳴。…それじゃあ私は行くよ…元気で。」
慌てて顔を上げた時には雷光はもういなかった。その代わりに雷光のいた場所には一輪だけ摘み取られた彼岸花と白い小さな紙が落ちていた。
彼岸花のもう一つの花言葉
『また会う日を』
嫌でも目につくピンク色で書かれたその文字はいつもより優しい感じがした。