その他

□仮面舞踏会
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伊賀、灰狼衆首領主催、仮面舞踏会。
衣装貸出有り。
全員参加必須。
日時、明日午前零時。
伊賀の里にて。


「…何だコレ。首領は何考えてんだ…?」

パソコンの画面を見て溜め息をつく。
何年も伊賀忍として灰狼衆で首領についていたが、やっぱりあの人は掴めない。

「全員参加ったって宵風いねぇぞ。どーすんだ。つかアイツどこ行きやがったんだ?」

もう一度、溜め息をついてキーボードに突っ伏した。
一人で行くことになりそうだ。


「…眠い。」

ついさっきまで仕事をしてたからもの凄く眠い。
しかも結局昨日は徹夜だったし。
会場の隅の方で一人でワイングラスを片手に目を伏せた。
もちろん宵風は帰って来なかった。
よくあることだ。
目を開けて辺りを見渡すが、知ってそうな奴は見当たらない。
顔見たって分からないような奴らばかりなのに仮面をつけてる意味はあるんだろうか。

「それで、何故衣装が中世ヨーロッパ風…?」

自分の着ている服を見下ろすと、頭を抱えたくなる。
ビラビラのシャツに裾の長い上着。
袖からもビラビラがはみ出している。

「似合わねぇ…。雷光なら普段から着てそうな気がするけどなぁ。」

想像してみて、ピンクの違和感以外は結構様になっていることに気付き苦笑いする。
どっかの王子様みたいな容姿をしてるのに服のセンスが神憑りすぎる。
しばらく壁に寄り掛かってぼーっと人を見ていると、反対側の隅の方に何故かいた音楽隊みたいな奴らが演奏を始めた。
どこかから首領の威圧的な視線を感じるのか人々はパラパラと踊り始めた。

「首領…俺は踊れませんよ…」
「それなら私と踊って頂けませんか?」

横から声がしてそちらを向くと、綺麗な薄ピンクのこれまた中世ヨーロッパ風のドレスを着た長身の女性が立っていた。

「私がエスコートしますよ。」

違和感。
むしろ既視感。
髪の毛、これはヅラだ。
ピンクじゃあないがこの女性は。

「雷こ…」
「いけませんよ先輩。名前を出しては。仮面舞踏会の意味がないでしょう。」
「先輩、は良いのか。」
「名前ではないですよね。」

名前を言い終える前に口を塞がれてしまったが、コイツは明らかに雷光だ。
茶髪のヅラをかぶって、化粧もされているが紛れも無くピンクの君。
なんで女装なんだ、と聞く前に雷光に部屋の真ん中まで引っ張り込まれてしまった。
周りで踊っていた奴らが止まり、いきなり現れた二人に注目する。

「な!!!だから踊れねぇ…っいって!!!」

足を踏まれた。
想像以上に痛い。

「心配しないで下さい。先輩がこけても笑って見てますから。」
「あぁそうですか…」

雷光は手を自分の腰にまわさせて、空いた手を組んだ。
少し緊張する体勢だ。
揺れながらクルクル回っているだけで良いようで、ヘトヘトになりながらも、音楽が終わった時には拍手を贈られた。

「へばってないで最後までちゃんとして下さい。」

最後までと言われても知らない。最初だって分からないのだから。
中世ヨーロッパといえば?
跪いて手の甲にキス?

「…何してるんですか!?」
「何って…」

雷光は勢いよく手を引っ込めてまわりに向かってお辞儀をした。
最後というのはお辞儀だったようだ。
それにしても珍しいものを見た。
恥ずかしがって取り乱す雷光なんて滅多に見られるものではないだろう。

「先輩もお辞儀して下さい。」
「そっか、」

頭を下げたとたん後頭部を思い切り叩かれた。

「ってぇだろうが!!!」

振り返ると雷光は既に奥の方へ歩いていくところだった。
後を追おうとすると色々なものがとんでくる。
諦めて、また壁にもたれ掛かっていると俄雨らしきテンパ君が駆けてきた。

「ピンクの君からの伝言です。」
「…ピンクの君?」
「そう言えとおっしゃられたんです。えっと、『私はあなた以上のダメ人間を見たことがありません』」

睨み付けると俄雨は慌てたように手を振る。

「僕が言ったんじゃありませんよ!!!そういえば雷光さんお顔が赤かった気がするんですけど、何したんですか。」

顔が赤かったというのは…
おかしくなって笑うと俄雨に変な目で見られた。
笑わずにはいられない。

「何したんだろうなぁ。」

珍しいものを見られるなら、たまにはこういうのも悪くはない。
今度はもっとちゃんと調べて、遊んでやろう。
笑い続けているのを俄雨は不思議そうに見ていた。


仮面舞踏会成功…?

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