その他

□ブルーベリーおにぎり
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差し出された紫色の物体は、食べ物というにはおぞましい色をしていて、しかしゴミとはいえないものだった。
ある意味で最終兵器なんじゃないかと思われるそれを食べるべきなのか。
ロイドは人生にかかわる選択を強いられていた。


「おにぎり作ってきましたよ。さぁどうぞ?」

丸い皿の上にコレでもかというように並べられた大量のおにぎりは、おそらく好意からなのだろうが、悪意の塊にしか見えなかった。
綺麗な三角に整えられたそれは、エリア11の伝統的な食べ物で”おにぎり”というらしい。
前にスザクが作ったものは多少形が崩れてはいたが真っ白で、もっとおいしそうに見えていた気がするのだが。
にっこりと微笑むセシルに微笑み返しながらおにぎりを一つ手に取る。
セシルは次々とおにぎりを配り始めた。
あんなにいい笑顔で渡されては、受け取らないわけにはいかないのだろう。
全員が一つずつおにぎりを手に持ったまま固まっていた。
口まで運ぶ勇気なんて誰も持っていないだろう。
配り終えたセシルは、皿を持って部屋を出て行った。
手に持ったままのおにぎりのにおいを少しかいでみると、あきらかにブルーベリージャムの香りだった。
よく見ると、ドロッとした物体が端のほうからのぞいている。

「ロイドさん…コレは、食べなくちゃいけないですか…?」

同じようににおいをかいでみて眉をひそめていたスザクが絶対に無理だという顔で言ってきた。
自分から食べたいだなんて言い出す奴がいるのだろうか。

「いらないのならもらってもいいかな?」
「あぁハイどうぞ…え?」

後ろから訊ねてきたその声はとても聞き覚えのあるものだったが、あの人がこんなところにいるはずがない。
おにぎりを差し出した手の方を見ると、背の高い金髪の男が微笑みながら立っていた。
すでにおにぎりを半分ぐらい口に入れている。
最悪だ。
よりにもよって、食べられるかどうかもはっきりしないものを食べさせてしまうなんて。

「で・…殿下!!!何でこんなところに!!!!!?」

スザクが慌てたように叫ぶと、シュナイゼルはにっこりと微笑みながら言った。

「見に来ただけだよ。ところでロイド、この食べ物は何というんだい?」
「おにぎり、だと思いますけど…」
「素晴らしい味だね。ロイドも食べてごらん?」

それはつまりおいしいと言っているのだろうか。
この紫色の不気味な三角の物体を。
それを聞いてスザクがおそるおそるおにぎりを口に入れる。
一口齧ったところで食べるのをやめ、トイレに走っていってしまった。
それを見ていなかったのか、それとも見ていたがそれでも食べさせようとしているのか、シュナイゼルは差し出す手をおろそうとしない。
ロイドは人生最大といっては大げさかもしれないが、そのくらい重要な選択を強いられていた。
殿下のいうことを聞かないのは自分には絶対無理なことだが、おにぎりを食べて何があっても保障はない。
作ったセシル以上の微笑みを浮かべるシュナイゼルにどう言えばいいのだろう。

「ほら、口を開けて?」

考えている間に、食べる以外の選択肢はなくなっていた
どうやっても断れないことをさとったロイドは決死の覚悟でおにぎりにかぶりついた。
口の中にブルーベリージャムのドロドロプチプチした感触が広がる、はずだった。
やはり味は大変なものだったが、覚悟していたドロドロがいつまでたってもやってこない。
どうやらドロドロの部分はシュナイゼルが全て食べてしまった後だったようだ。

「おいしいだろう?」
「…はい」
「間接キスというのかな、コレは?」
「はい…ぇ?」
「ついているよ?」

何を言われたのか分からずに返事をしていて、変な表現があった気がして顔を上げると、すぐ近くにシュナイゼルの顔があった。
口元にシュナイゼルの唇が当たって、思わず退くと今度は普通に口付けてきた。

「…で、殿下。今のは…」

シュナイゼルはロイドの問いには答えずに、怪しい微笑みを残して部屋から出て行った。
ゴンと大きな音を立てて机に突っ伏したロイドを見て、おにぎりのせいだと勘違いした者達は、全員がトイレに駆け込んだ。
おかげでロイドは真っ赤になった顔を誰にも見られないですんだのだった。






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