その他

□古泉一樹の変革
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「キョーンくんっ」

妹に飛び乗られ起きた朝がどんなに辛いことか。
しかも普段より1時間も早く。
俺はまだ眠いんだ、寝かせろ。
寝返りをうって二度寝しようとすると妹は耳元で囁いてきた。

「キョンくんにお客さん来てるんだよ。綺麗な女の子。」

それを早く言え。
俺は妹を弾き飛ばすと跳び起きて制服を引っつかんだ。
そういえば綺麗な女の子って誰だ?
ハルヒのことはハルにゃんだし、朝比奈さんはみくるちゃんだし、長門にしても鶴屋さんにしても名前を言わない理由はない。
知らない人だったのだろうか。
着替え終わると、部屋の隅で丸くなっていたシャミセンとじゃれている妹を残し、リビングへ下りる。
こんな朝早くから俺に用があるのは一体誰だ。
少しのドキドキとワクワクを胸に、扉を開けた向こうにいたのは、ハルヒや長門、朝比奈さんまでもが霞むかと思われるような美少女だった。

「おはようございます。」

見馴れた笑顔で少女は言う。
本心からにしては多少嘘臭く見えるその笑顔を俺は見たことがあった。
見馴れていた。

「朝早くからすみません。僕としても予想外の出来事だったものですから。」

ちょっと待ってくれ。
状況が掴めない。
まず一つきかせてもらうが、お前は誰だ?

「古泉一樹です。信じられませんか?」

信じたくない。
朝比奈さんまでもが霞むと形容した美少女が昨日まで男だったなんて信じたくない。
けど、その嘘臭い笑顔は紛れも無く古泉のものだ。嫌々かながらも信じざるを得ない。あー嫌だ。

「ありがとうございます。僕が来たのはこの状況を説明するためなのですが…必要ありませんね。」

説明も何もお前が女になっているという状況理解以外に何をしろと言うんだ。

「原因を考えてみましょうか。」

俺のせいじゃないぞ。
昨日お前がハルヒに、俺が男が好きだと言ったせいじゃないのか。

「おそらくそうでしょうね。涼宮さんは部内で恋愛があるべきでないと思っているんでしょう。もしくは…」

もしくは、何だ。

「いえ、言わない方がいいんでしょうね。涼宮さんの考えることは僕等にも理解出来ないことがありますし。朝比奈さん風に言うと、『禁則事項』です。」

人差し指を唇に当て、小首を傾げながら言う古泉(♀)。
違和感はないどころか朝比奈さん並に似合っている。
なんだか泣けてくる異様さだ。
しかし泣いている場合ではない。
いつの間にかドアの隙間から覗いていた妹を早々と学校に送り出し、とりあえず学校に行くことにしよう。
考えるのはそれからでも良いだろう。
妹は少し突くと、古泉に礼儀正しくお辞儀をして家を出た。
いつもこんなだったらいいのに。
そう思いながら溜息を吐き見送っていると急に振り返りニヤニヤ笑った。
前言撤回だ。
長門ほどとは言わないが、せめてもう少し静かだったらいいのに。

「可愛らしい妹さんですね。羨ましい限りです。」

それなら代わろうじゃないか。
うちの妹も姉さんができればそれは喜ぶだろうよ。

「僕は男なんですが…」

戻るかどうかも分からん奴を男とは呼ばない。
古泉は嘘臭い笑顔を浮かべ、それもそうですねと言うと鞄を持って玄関へ向かった。
俺は、用意してあった弁当を掴むとそれに続く。

「そういえば、朝食はどうされるんですか?」
「学校行ってから弁当食うさ。時間があればな。」

そんな時間があるようには思えないから、結局は抜くことになるだろうが。
ハルヒはこの古泉を見てどんな反応をするのだろうか。
古泉(♂)は初めから女だったことになっているのか。
そんなことを考えつつ歩いていた時ふと違和感を感じた。
何かが矛盾しているような、そんな感じがする。
朝、起こしに来た時、妹は何と言ったっけ。

『キョンくんにお客さん来てるんだよ。綺麗な女の子。』

…そうか。

「古泉。お前うちの妹とあったことあるよな。」

古泉は不思議そうに首を傾げ――こういう動作の一つ一つが朝比奈さん並に可愛くて直視出来ない――頷いた。
当たり前だ。草野球大会の時だって冬の合宿の時だって妹はSOS団と共に行動していたのだから。
そうなると、朝の妹の台詞は古泉(♀)を古泉だと認識していなかったが故の発言だということになる。

「つまり、僕は僕ではない誰かとしてあなたの隣にいる。」

理解が早くて嬉しいよ。
しかし古泉は俯いてしまった。
都合の悪いことでもあるのだろうか。
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