その他
□兄弟の絆
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線路沿いに凄いスピードで走る車の中でエドワードはこれでもかというくらい大声で喚いていた。
「急げよ大佐!!!!!!アルが!!!!ああぁぁあぁあどうしよう!!!!!もし…、早くしやがれぇええ!!!!!!」
「いい加減うるさいぞ鋼の。弟が心配なのは分かるが事故でも起こしたらどうする。後ろを見ろ!!!中尉達の車が見えなくなってしまったではないか!!!!」
エドワードはややスピードを下げながら車を走らせるロイに今にも飛びかかりそうな勢いだ。
無理もない。たった一人の弟を危険な状態で置いてきてしまったのだから。その弟が犯罪者と平和に歓談中だったとは思いもしていないだろう。
イライラしながら後部座席で拳を握り締めていると、車が突然止まった。
エドワードは勢いよく頭を打った。
「いってぇな!!!!!いきなり止まんなよこのクソ大佐!!!!!」
「鋼の、君の心配の元が現れてくれたぞ…」
溜め息を吐きつつ車の外を指差すロイの指の先にいたのはスカーだった。
スカーは静かに近づいて来ると、開け放していた後部座席の窓からエドワードに言う。
「鋼の錬金術師。今日は見逃してやる。だが次はないと思え。神に祈る間はやらん。…弟にあまり心配をかけるな。」
「は?」
エドワードが訳が分からず呆けている内にスカーは地下水道に降りていってしまった。
ロイも同じように唖然としてその光景を見ていた。
「殺気が感じられなかったから車を止めたが…まさかスカーがあんなことを言うとはな。」
「あ、あぁ…」
そこへリザ達の車が追いついてきた。
護衛達は二人が無事なのを確認し安心したように車を止めると、走ってきた。
そして車の中で呆けている二人を見て不思議そうに首を捻った。
*
エドワードがリゼンブールについたのはそのすぐ後だった。
もちろんアルフォンスもウィンリィも無事だ。
「良かった…アル…」
「俺達としては大佐と大将の暴走車が何事もなくここまでたどり着いたことに良かった…なんだけど…」
リザと一緒に護衛車に乗っていたハボックが疲れきった顔でそう言うと横に立っていたロイに向こうへ追いやられた。
「…何かいつもと逆だったみたいだね。兄さんが心配する側だなんて。」
「いつも心配させてごめんな、アル。」
エドワードは道中に出逢ったスカーの言葉を思い出して言う。
アルフォンスは少し驚きながらも嬉しそうにエドワードに抱きついた。
「どうやら喧嘩のことはすっかり忘れているようだな、中尉。」
ロイはコソッとリザに言うと呆れたように笑った。
リザも優しい目で二人を見た。
「そのようですね。」
鎧の背中を優しく叩くエドワードに抱きついたまま、アルフォンスはスカーのことをふと思い出す。
(いつかあの人もこんな風に平和な時間が過ごせるよね?復讐を果たす以外のやり方で…)
戻ってきていたスカーがその光景をあの空き小屋の陰から見ていたのは、スカー以外誰も知らない。
そして、平和に少し憧れてしまったのも彼以外の誰も知らないことだった。