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□Can Look
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泣き出しそうなくらいに顔を歪める小十郎を見て、政宗は少し笑ってみせた。

「まだ俺の右目のことを気にしているのか」

そう問い掛ける。

「短刀であなた様の右目をえぐり出しましたのは、紛れも無い、この小十郎にございます」

やっぱりな、といった具合に政宗は肩を竦めた。

「なに責任感じてんだ。元々俺の右目は腐りきっていたんだ。あってもなくても、変わりねぇんだよ」

明るく言う政宗だが、小十郎の長年背負っている重荷は降りない。

「いいか、小十郎」

政宗は腰に手を当てると、駄々っ子に言い聞かせるような口調で彼の名前を呼んだ。

「俺を変えさせたのはお前だ」

そう言って指を突き付ける。

小十郎が右目を切り取るまで、自分が大嫌いだった。

それまでの右目には、絶望しか見えてなかった。

「今はこの目に何が見えるか分かるか?」

ポタリと血が落ちる。

真っ白な雪に生える赤い花。

「いえ」

小十郎はその花を見詰めながら呟いた。

「俺の眼には……」

その言葉の続きを聞いた小十郎の目から、涙が溢れ出す。

「これだけは見失うわけにはいかねぇだろ?」

政宗はそう言って笑う。

小十郎は滲んでしまった涙を拭いながら微笑んだ。

「そうですな。見失われては困りますな」

透明な雫がすっと雪に吸い込まれた。

「さあ、政宗様。奥州へ帰りましょう。今晩は冷える見込み故、小十郎めが鍋をこしらえます」

この人はいつの間にこんな言葉を掛けられるようになったのだろうか。

「味噌鍋な」

「つい先日も味噌鍋でしたでしょう?」

「いいんだよ、味噌で」

「仕方ないですね」

そんな親子じみた会話をしながら、肩を並べて奥州の道を歩いていった。
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